2005年06月17日

むらむらとして寝付けないので
起き上がって散歩に出掛けることにした。

兜町の証券取引所を出ると、
闇夜を行き交う自動車が
雨上がりでもないのに濡れた路面を滑るように
しゃあしゃあと音を響かせている。

鎧橋を渡りながら外堀の運河に目を落とすと
真っ黒な水面がてらてらと光っていた。

すぐ角を左へ曲がり、
どこかで見た景色だと思っていたら、
大阪の中之島から肥後橋を渡り右へ折れた土佐堀沿いにそっくりである。

前を行く縮れ毛の女性の後姿が、大阪の叔母に見える。
いやにせかせかと歩いているのに、不思議とぐんぐん距離が縮まっていく。
気になってよく見ると、肥えた下肢は小走りにこちらに向かって進んでいた。

気が動転して、明治座に向かう予定が、いつのまにか
どこを歩いているのか判らなくなってしまった。

夜の雲が、闇空の遥か高いところに、
山の稜線を造りだしている。

いつのまにか道は途切れ、そのまま夜の公園へと誘われた。
じめじめした外灯の明かりの下、影の薄い人々が、
三々五々に大声で噂話をしている。しかしいくら意識しても何を喋っているのかは
判らなかった。

突然、眼前に
保健センターの影法師が巨人のような姿を現し、そして消えていった。

左右には、吸い込まれそうな暗い長屋通りがいくつも現われ、
軒先では青白い光がばちばちと音をたてて燃焼している。

やがて道が行き止まりになると、右に、「身延別院」と書かれた寺が建っていた。
眼の前の公園を眺めてぼんやり立ちすくんでいると、
大きな声のようなものが聞こえて、辺りが薄暮か早朝かのように、急激に白っぽくなった。

通りの遥か遠くから、腹巻をした老人が、眼を細めてしきりにこちらを見ている。
私は歯が震えて、足早に来た道へと戻ると、また直ぐに辺りは澱んだ闇夜へと戻った。

息が上がって、後ろを振り向くと、公園のいちばん奥の腰掛けで
真っ白な顔をした二人の人間が交尾をするように抱き合っていた。

・・・

あくる日、知り合いにその話をすると、
その公園は十思公園といって、
江戸時代の牢屋敷跡なのだと教えられた。

投稿者 vacant : 2005年06月17日 21:15 | トラックバック
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