陽が傾いてきたので起き上がると、
少し夕方の風が吹きはじめていた。
一時間くらいは寝たらしい。
与儀公園の石垣の上は、
僕の身体の跡だけがまだ昼の熱気を保っていた。
粗めの砂利で造られた感触を指で確認する。
汗の跡なのかじっとりと黒ずんでいる。
頬を撫でると手のひらから砂が払い落ちた。
空気がうっすらと紫色を帯びてきた
と思っていたら、
公園の蚊が次々とやってくるようになった。
向かいの神原小学校にはもう誰もいないようだ。
ひめゆり通りを急ぐ自動車の音が
やけに騒々しい。
べとついたシャツに風を入れ、
ぎくしゃくした身体で
また歩きはじめることにする。
夕闇と排気ガスに追い立てられるように
あても無くガードレールの内側を往く。
開南のバス停では、
坂道に沿って人間が坂のように並んでいる。
みんな自分の生活のことで頭が一杯で、
僕のことには誰も気付かなかった。
市場の裏では、吠え立てる犬。
青いプラスチックのゴミ箱。
見上げれば、アーケード入口の錆びた赤い文字と、暗い天井。
洞窟のような商店街を抜けると、
空は蒼く夜だった。
街の光のにじみ具合が
なんだかいつもと違う気がして
ふらふらとA&Wに入っていった。
冷房と蛍光灯に眼の奥できーんと音が鳴った。
店員の黄色い声が遠くから聞こえてくる。
席に座ると
窓の外には夜の街が流れている。
店内のやけに黄色い光との対比が、
なにかの映画を思い出させた。
そしてルートビアを一口飲んで
思い出した。
この店は、何年も前に瓦礫にされて
今はもう無かったはずだということを。