頭の中には、1曲。
鳴りつづけている。今も。
急に駆けだすと、音が飛んで、また途中から。
陽射しが烈しい分、日を遮られた路地は、くっきりと黒い。
石の壁に挟まれて、ひんやりと何かの匂いがする。
小刻みに爪の音を響かせて、黒い犬が出かけていくのが見えた。
さっきから古い教会の塔が、片面を光に焼かれて、ずっと頭を出しているのだが、
どう登ればそこまで辿り着けるのかが、解らない。
どこにも人間がいないので、動悸が速くなる。
Joao Gilberto「三月の水」の3曲目に突然、
歌のない「靴屋の坂道で」という曲が入っている。
行き止まりにならない路地を見つけ、
調子づき坂を登っていく。
塔の裏側は狭い広場になっていて、
禿げ上がった、楕円球の頭の男がたったひとり、小枝を手に
黒くてらてらした肌の犬をしつけていた。
小さな胴体に小さな足を付けたような女児が、
バトンを振り回して遊んでいた。
投稿者 vacant : 2005年07月01日 15:34 | トラックバック