『この世は幻 夢の中こそ現(うつつ)なれ』
すこし前まで、世界の種類はこのふたつ。
昼間の世界と、夜の夢の世界、だった。
毛布にくるまって読む小説も
珈琲と煙草とお喋りを生む映画も、
昼の現実か、夜の夢の中を描いたものだ。
じゃあ、
誰にも知られない個人の想像の世界、
白日夢は
もうひとつの世界とはいえないのか。
いや、白日夢は世界と呼ぶには小さすぎた。
それは、昼間の世界で小瓶に詰められた紙片のようだった。
ついこのあいだまでは。
それが、いつのころからか
www.という世界が生まれていた。
世界に3つめができたらしい。
現実でも夢でもない世界。
いままで存在を知られることのなかった、
ビルの7 1/2階のように。
WILD FANCY ALLIANCE 。((c)SDP )
経緯度を越え、見知らぬ国を歩く大脳の妄想たちと直接結ばれる。
横長の長方形をしたディスプレイの中は
沼のようになっていて、
細い梯子が縦横無尽に延びている。
この世界を、
江戸川乱歩に体験させてみたかった。
マウス、キーボード、ディスプレイの時代は終り、
やがて「扉」のかたちをしたインターフェースが
登場するだろう。
それを開けて入っていく世界。
あるいは、プールや水槽型の入力装置か。
漆黒の水のなかにいま飛び込もうと屈ませた身体。
『うつし世は夢 夜の夢こそまこと
この世は夢 夜の夢こそまこと』