2005年07月29日


七日目の朝は、
未明に目を覚ました。

あした一日で距離をかせぎたいから
始発のバスで発ちたい。
前の晩に宿賃を支払うと、
主人は、三時五十九分にバスが来ると云った。

どろどろの闇のなかで荷造りをし、
外へ出ると、
もう、物が見えはじめていた。

薄明の澄んだ空気。

でも潮風がここまで流れてくるのか
肌がもうべたべたする。

光が足りない写真のように
粒子は粗く、淡くぼやけて見える。

黄色い土埃の道路に青みのかかった空気。

山の樹々の輪郭がようやく認識できる。

夏の朝なのに、うすら寒かった。

遠くの浪音と
早朝の山鳥の囀り声、
それ以外は何も動いていない。

こんな時間、こんな場所に
バスが現われるわけがない。
そう確信したくなる時間がいつまでも続いた。

奥まで錆びきった停留所の柱が
曇り空の下、風に揺らされている。

やはり来ない。
腕時計の時間が十分進んだ頃、
来るはずのないバスがカーブの先に
突如姿を現した。
どきりとするほどに静寂を破って。

私を轢き殺しに来るのではないかしら。

どんどん大きくなるバスの姿に、
夜明け前の濁った空気のなかで、
何か不思議な縁を感じた。


投稿者 vacant : 2005年07月29日 23:12 | トラックバック
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