近頃、何もしない時間って、あるんだろうか。
ひと昔前、何もせずに過ごしていた時間を、
いま、みんなは検索して過ごしているような気がする。
あの頃、日曜日の夕方、窓からの西日が部屋を染めるころ、
本当になにもすることがなかった。
FMラジオから流れる曲も、曲名を検索することはできなかったから、
1ヶ月も、1年も、3年も、わからないままだった。
いまでもわからないままの曲もある。
哀しいオレンジ色の室内に、不毛に散らかった曲が流れる。
オーネット・コールマンや、P.I.L.、あるときはサンディニスタ、
またあるときはザ・スミスなどなど。
このあいだ聞いたNUMBER GIRLもそんな音だった。
僕ではない、今のだれかが、部屋でなにもせずに、聴いているのだろうか。
・・・
「なにも起こらない」ストーリーを観てみたい。
小説でも、映画でもいい。
ただし、フランス人や、明治の日本人の話ではダメで、
今の、日本人の、若い人の、「なにも起こらない」ストーリーが観たい。
犯罪も、愛憎も、不登校すらいらない「なにも起こらない」ストーリー。
深夜、タクシーに乗るたびに、
車窓の流れを映像に記録しておきたくなる。
春の小雨、あるいは雨上がりの闇のなかに
あるビルでは人が働き、あるマンションは死んだように灯りも無い。
だれも覗くことの無い路地。半分消えたタワー。
高速道路で左側を滑るように追い抜いていく、
巨大なトラックのタイヤ。
・・・
「なにも起こらない」ストーリーの、断片だけは、今、
wwwの中に無数に散らばっている。
Technoratiの中に。(テクノラティプロフィール)
いじめではなく、いじりを受けたが、夕飯は好物のものだった。とか、
今日友人が言っていた言葉への抽象的な反論。とか。
・・・
薄水色の夕方の空気。
下校中の子供たちの声や、
遠くを車が走り去る音が、湿り気を帯びて聞こえる。
投稿者 vacant : 2006年03月02日 23:59 | トラックバック