2006年05月30日

昨晩はテレビで、映画『下妻物語』を見た。

人間関係に恵まれなかった人間不信の少女が友情と夢に目覚めるまで、というストーリー。
女性ならではの、人間関係構築の難しさ、
女性ならではの、偶然性に左右される人生、
などが描かれている、なんて言えるかも。


最初の30分くらいは、いちおう見入った。

読売新聞別刷テレビ版によると、「斬新な映像表現」とのことで、星4つついていたが、
私は別の評価だった。

監督は、CMディレクターの中島哲也。
読売新聞のいう「斬新な映像表現」は、
もうすでにブラウン管で、「Jフォン」や「きっかけはフジテレビ」や「LOVE BEER」などの素晴しいCMの中で見たことのある映像だった。

もっと言えば、『鮫肌男と桃尻女』(石井克人監督)以来、『真夜中の野次さん喜多さん』(宮藤官九郎監督)に連なる、
強烈な「既視感」を感じてしまう「映像表現」だった。
「あ、またこの手の『斬新な映像表現』か・・・。」
「あ、また荒川良々か・・・。」(笑)

(※『SURVIVE STYLE 5+』(関口現監督)や『ナイスの森』(ナイスの森監督)も、こんな感じなんだろうか。なんだろうな。なんだろうか。なんだろうかねぇ。まったく。見てないけど。ちがったら嬉しいけど。似たたぐいだったら、ホントかなしい。別の人間がつくるものがみんな似てしまうなんて・・・。)

もっと言えば、ジャン=ピエール・ジュネや、ガイ・リッチーという先達を上手に消化したこういう映像表現を、なぜ読売新聞は「斬新な映像表現」などと書けるのだろう。


5月22日の日記に書いたことを思い出す。

小説も、商品も、マス化するものには、あるファクターがある。(中略)
読者にとって、「思いあたるふしがある」「身につまされる」「人ごととは思えない」ことが書かれているかどうか。
あるいは、魅力的なキャラクターがいるかどうか。文章が美しいかどうかということもあるだろう。

この映画は
キャラクター設定も、映像も、刺激的(濃い味付け)なので、
マス的にヒットしてもおかしくはないと思う。

でも、
「身につまされる」「人ごととは思えない」ことが書かれているか
という点ではどうか。

・人間関係(家族関係)に躓いた少女
・友情を知らない少女
・夢の実現を目の前にすると人は臆病になる

これらのことが描かれているのだが、
それが「身につまされる」「人ごととは思えない」ほどにしっかり描かれているのかと言えば、
なんとなく、マンガのように表層的に見えるのです。

(現代では「感動」や「涙腺」にも定石があって、
現代人はその方程式で見せられると
パブロフの犬のように感動させられてしまう、みたいな・・・。)

でも、
「それが『イマ』なの。」と言われれば、(誰に?)
そうなのかとも思ってしまう。
たしかに
その軽薄で浅はかな描き方こそ、
決して本音を言わない現代っ子らしさをよく表しているとも思える。

クドカンの
『真夜中の野次さん喜多さん』を見て、
ある男が
「前半はボチボチって感じだったけど、後半で夜中に小池栄子が米を磨いでいるシーンは、エラく身につまされた。」
と言っていた。

アップテンポなカット割、
シュールな展開、
劇中劇、楽屋落ち、
マンガ的デフォルメ・・・etc.etc.
そんなドタバタな表現のなかに、ちょっとだけ「身につまされる」「人間の真理」を忍ばせるのが
シャイな現代人らしい表現作法なのだろうか。

(まるで、ファニーなキャラのオレンジレンジがたまに歌うバラードのように・・・。)

(え?何て?)


オレの夢想。
(オレって誰?)

①『下妻物語』を見て「最高の映画だ」と感動している若い女の子に『東京物語』を見てほしい。

②『下妻物語』を、『珈琲時光』の侯孝賢に監督させて、比べてみたい。


PVみたいな映像表現もいいけど、共感もね。

こんなことを考えてしまうのは、
もしかしていま私が、『枯木灘』(中上健次 河出文庫 昭和55年初版)
などを読んでいるからだろうか。

投稿者 vacant : 2006年05月30日 22:11 | トラックバック
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コメント

原作を読むことをお勧めする。だまされたと思って読んでみたまえ。

Posted by: 六ヶ所村ズのドラマー : 2006年05月31日 20:37

ご意見ありがとうございます。
読んでみようと思います。
おそらくいい作品だと思うと思います。
私は基本的に5/21に書いた2冊のような切ない話は好きなので。
5/30の趣旨は、「CMディレクター氏の映像表現に既視感を感じ、登場人物への共感も薄かった」というものです。
原作はおそらく登場人物への共感もあるものと想像しています。
「嫌われ松子の一生」もそうではないかと思っています。
2本続けて、いい原作のチョイスをしますね。この監督は。
(よけいなお世話ですね。)
原作をちょっと読んでみたいです。

Posted by: vaca : 2006年06月02日 13:50

『嫌われ松子』は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(ラース・フォン・トリアー監督)でくると見た。『嫌われ松子』観ずに言ってるけど。観ないで言うってのもひどい話だね。どうしてオレ、こんなに執拗に因縁つけてんだろう。。。

Posted by: vaca : 2006年06月12日 00:07
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