清少納言風に言えば、
「夏は、夜。」
であり、
かつ
「夏の夜」は、「知らない駅」。
ということになるのだろうか。
夜になって
降りてきた
湿気のせいか、
がらんとしたホームに
心もとない
黄色い蛍光灯は、
いくつ灯しても
なんだか青白く
明るさが足りなくて
ものの輪郭は
かげろうのように、じんわりとしている。
向かいの
ホームのコンクリートは、
現像液から途中で引き揚げた
8×10のよう。
さっき歩いてきた駅前は
公団の立ち並ぶ人工の島。
おもちゃのような商店街に
飾りのついた街灯が
映画のセットに見えた。
その下を、本物の人々が
歩いている。
8月14日、月曜日。
昼間は、ことし唯一の、入道雲を見た。
こんな夜の駅に
特別な感情を持ってしまうのは
むかし、夏にこんな
じめじめとした静寂のなかで
なんども一夜を過ごしたから。
ここがどこかもよく知らないけれど、
きょうはここからもう何処にも往かない。
電車が滑り込んでくるのを
がらんどうのホームで待っている。
数時間後、
DVDで市川準の『トニー滝谷』(GNBD-1051 JAN:4988102122034)を見た。