「じゃあ、いまの料理は何だ。最高級のフカヒレだが何だか知らないが、どういうつもりであんなものを食わせたんだ。あんなものを食うことに何の意味があるんだ」
「何の意味もないさ。ただの料理だよ」
と辻静雄はいった。明子と山岡亨が心配そうな視線を向けていた。
「おまえが何を食おうと勝手だが、ブルジョアの真似をしておれたちに見せつけるのはやめにしてもらいたいな。おまえの精神は腐ってるよ」
「何も見せつけてなんかいないじゃないか」
「ああ、おまえは何も見せつけてなんかいないさ。これがおまえの普通の生活なのさ。そうだろ? そうやって、これは最高だとか、あれは二流だとか、死ぬまでくだらんおしゃべりをしていろよ。だがな、おまえが何といおうと、おれは百五十円のラーメンで結構なんだよ。フカヒレだの海ツバメの巣なんか食わなくたって、おれたちはちっとも困りはしないんだ。それで十分なんだよ」
(『美味礼賛』海老沢泰久著 より)
日本でフランス料理のことを知っている人など(コックも含め)一人もいなかった時代に、大金と根性でフランスじゅうを食べ歩き、猛烈に勉強し、三ツ星レストランのシェフたちと関係を築き、フランス料理のすべてを日本に伝えた、辻調理師専門学校の校長、辻静雄の物語。
「解説」で、わが師(?)向井敏氏が、「書く人と書かれる人、これほど絶妙な組み合わせはめったにあることではなかった。」と書いているように、たしかに読みごたえのある本だった。ちなみに、辻静雄のことを書いてみないかと著者海老沢泰久にすすめたのは、丸谷才一氏とのこと。
・・・
遣唐使の昔から、村上隆にいたるまで、
異文化を運ぶ仕事というのは、ロマンチックだ。
『美味礼賛』のおもしろさ、
辻静雄のおもしろさもそこにある。
なにせ、当時
だれもフランス料理を知らない日本から旅立って、
フランス一(否、世界一)のフランス料理店と
深い関係を築き、
その店でフランス料理の真髄を教わり尽くしてきたのだから。
なぜ、相手は受け入れてくれたのか。
それは
「はるばる日本からフランス料理のために」
はじめてやってきた日本人だからだ。
その情熱に打たれて、無償ですべてを教えてくれたのだ。
遣唐使も村上隆ももっていたであろう
知恵と情熱。
日々横行する
「海外モノのパクリ」などとは
そもそものレベルが違う。
月とスッポンのミックスジュースに
爪の垢を煎じて加えて
嚥下したほうがいい。
(意味不明)
・・・
それにしても、
異文化の伝達はロマンチックだ。
異文化の混ざり合いはロマンチックだ。
ハードディスクレコーダーで
「世界遺産」などの番組を見まくっているのだが、
見まくっていくうちに、
だんだん
いちばん魅かれていくのは
中南米のヨーロッパ風旧市街だ。
侵略の事の是非はさて置いておいて、
フュージョンの美しさに心惹かれていく。
なかでもフュージョンなのは、
当時イスラム文化が盛んだった
南方のスペイン人によって
中南米に建てられた建築。
つまり、
スペイン人が媒介となった、
「イスラム」+「ヨーロッパ」+「中南米」
のめくるめくフュージョン!
黒ビールとマンゴーとミルクの
ミックスジュースを加えて
よくシェイクした
ガスパチョのよう!
(意味不明)
・・・
マカオには、ポルトガル人の顔をして中国語をしゃべるハーフがたくさんいる。
ちょっと奇妙で、ちょっと異様な光景だ。
だが
フュージョンがロマンチックなように、
何処の国でも
ハーフの顔は、えてして美人だ。
投稿者 vacant : 2006年11月07日 01:35 | トラックバック