「一つは、フランスに留学して知ったのですが、フーコーやドゥルーズといった当時持てはやされていた思想書をフランス語で読むと全然難しく書いていなかった、というのがあります。」
「今では哲学や思想でも、難しく書いたところで相手にされなくなってきています。一つにはフランス現代思想の地位が失墜したということがあると思います。日本で言えば、20年前はフランス現代思想だったのが、今は社会学になっている。社会学は、身の周りの問題意識から始めるし、難しい理論というよりは、人々が持っていたのとは全く異なる常識があることを指摘する学問。殊更に専門用語を振りかざすことも少ないから、わかりやすいですよね。」
「20年以上景気が低迷して、人口構成的にもデフレが本格化する時代になりました。経済も成長しないし、分配するものが減ってくるのがいよいよ見えてきた。まずは社会にせよ制度にせよ、一回ゼロベースで考えないと持たないという意識が出てきますよね。」
「2007年にライターの赤木智弘さんが『希望は、戦争』という文で、なぜ若いやつだけが割りを喰わなければいけないんだ、一部の若者が苦しむ不平等よりも全員が苦しむ平等の方がいい、と論じて大きな話題となったように、『自由』より『平等』の方が重要なテーマになっているんです。」
萱野稔人「『わかりやすさ』と『原点』を問い直す時代」より
『広告』vol.385 2011年4月号 所収