2005年12月06日

11月27日(日)


ドイツ写真の現在——かわりゆく「現実」と向かいあうために

東京都国立近代美術館


溶鉱炉や炭鉱の採掘塔などをめぐるタイポロジー作品に長年とりくんできたベルント&ヒラ・ベッヒャーが、1990年、世界的な現代美術の祭典であるヴェネツィア・ビエンナーレにドイツ代表として参加し、金獅子賞を受賞したことは、エポック・メーキングなできごとでした。これをきっかけとするように、90年代以降、ドイツの現代写真は、現代美術の世界でつねに注目を浴びる存在となっていきます。くしくもこの1990年は、ドイツにとって40年の分断の歴史に終止符が打たれた、歴史的な転換点となる年でした。1989年秋のベルリンの壁の崩壊から、わずか一年たらずのあいだに、めまぐるしい速さで実現したドイツの再統一。この劇的な「現実」の変化を背景に、90年代のドイツからは、さまざまな写真表現が発信されていきます。[RM]

Bernd & Hilla Becher
ベルント&ヒラ・ベッヒャー(1931/1934—)

1950年代末より、炭鉱の採掘塔などの近代産業建築を、「無名の彫刻」として一定の構図、光線条件で撮影し、機能や構造別に分類・編集した「タイポロジー(類型学)」作品にとりくんできたベッヒャー夫妻。今回は、同じタイプの建造物による典型的なタイポロジー作品に加え、さまざまな種類の建造物を組み合わせた展示や、近年まとまって発表されはじめた、「産業風景」シリーズの展示が試みられています。彼らが数十年にわたって構築してきた、産業建築をめぐる膨大なイメージのアーカイヴには、いまだ明らかにされていない、さまざまな可能性をもつ引き出しが用意されているようです。[RM]

Andreas Gursky
アンドレアス・グルスキー(1955−)

グルスキーは1990年代以降、世界各地のオフィスや工場、ホテルなど、グローバル化・高度消費化が進む現代社会の様相を、一種のスペクタクルとして鮮やかに切りとってきました。そのパノラミックな光景の中では、人間や動物は蟻のように小さな匿名の存在として登場しているにすぎません。その巨大な作品はデジタル加工をしばしば取り入れることによって、私たち一人ひとりの存在をはるかに超えた大きな力(自然やグローバリゼーションなど)の存在を、よりいっそう効果的に示唆しています。[MT]