深川、ネジ工場、22時58分。
いろいろありまして、最終退出者。
都合三フロアの施錠を確認後、セキュリティをセットし、階下へ。
消灯、・・・あれ? 消灯、えー、消灯・・・。
内階段の電灯は煌々と、帰る気満々で着込んだ緑色のレインコートを照らす。
かつての同僚に電話し、スイッチの在り処を尋ねる。
「思い出してもみろ、向かいの居酒屋で飲んでた時、店から見た階段は真っ暗だったか? いや、点いていた。そうだろう?」
口調はやや気になるが、頼もしい返事を頂く。
やれやれ、点きっぱでいいのかと、最後の施錠を行う。
金属と金属の擦れ合う不快な音が、鍵穴と鍵から発せられ、キーシリンダーの回る気配は一向に無い。
? 事態がよく飲み込めない。
カギを間違えた?
いやいやいや、以前にも最終退出者として施錠確認はしてるですよ。
しかも、このキーシリンダー、押すとミリ単位で入り、引くと扉から浮いている。
回らないんですね。
いやもう、憤りよりもファンタジーですよ。
軽くパニくって、同フロアの至るところ全ての鍵穴に挿してみる。
まあそりゃ挿さりはしますよ、同一メーカーだし。
暑い!レインコートを脱ぎ捨て、諸事情により装着していた肋骨固定のリブバンドも毟り取るようにはずす。
表は雨。
学生らのはしゃぐ声が聴こえる。
軽く殺意が湧く。
自らのひとりごとに気付かず、声が聴こえたと戦々恐々とする。
闇に佇む、軍物コートを着た男三十、不審者にしか見えない。
とりあえず冷静に、ビー・クールでいこうと、水場へ向かい鏡を見る。
追い詰められた男三十が、何故か半笑い。
駄目過ぎて正視に耐えない。
・・・。
穏やかな気持ちでリトライ。
ぐっと押し込み、右に半回転!
いやいやいやいや、それは開錠方向で、施錠は左。
あ、でも・・・少なくとも回るってことはここのカギだ!
が、どうにも左には回らない、回らない。
一度右に回してその勢いでゆるゆると左へ。
・・・!
野郎!手間かけさせやがって!
半泣きで現場を去る。
※一部脚色を加えていますが、だからどうしたと言われればそれまでのことです。
投稿者 yoshimori : November 25, 2005 09:49 PM | トラックバック