乗鞍岳、雪溶け後続々と発見されるxxx(自粛)に春を感じる、20時15分。
急ぎ気味に飛び乗った東西線には、一足先に退勤した職場同僚がシートに座っている。
「お疲れ、お疲れ」と、隣に着席。
「えーと、お忙しいところあれなんですが、ドラマの撮影が入ってしまいました」
本業はそっちだもんね。
「ええ」
また殺される役?
「死にませんよ! ・・・たぶん」
なんて題名?
「『けものみち』ですよ」
町田康?
「それは既に映画化されてて、タイトルも違いますね」
『けものがれ、俺らの猿と』か。
「知ってんじゃないすか」
ん? 誰でしたっけ?
「松本清張ですよ」
へえー。誰が出てるの?
「さあ・・・」
何の役で出るの?
「聴いてませんね」
やる気あるの?
「ありますよ!」
ロケ地は?
「いや、知りません」
どうすんの、奥多摩あたりのリアル獣道だったら。
「覚悟します」
蛇とか喰わされるよ。
「いいですよ。ってどんなドラマですか」
馬鹿よ馬鹿、役者馬鹿。
「ありがとうございます」
そう言えば、松本清張って竹中直人が物真似してなかった?
「え? まじすか。知りませんけど。いや、知ってるかも。絵ヅラが浮かんできた」
でしょ? あ、でも、遠藤周作だったっけかな。
「そんな地味な物真似に需要があるとは思えませんが」
地味だからいいんじゃんか。
東西線は大手町に停車する。
「じゃあ自分、マネージャーを待たせてるんで、ここで失礼します」
はい、お疲れー。
何だ、さっきまで鼻から讃岐うどんを喰う話をしてた男が。
・・・格好いいじゃないか。