April 05, 2006

『元ナチ高官と語る夕べ』 (第1回)

パスタの種類を始め、イタリア語にまつわる全てを日に日に忘れゆく。

「ヨーコさん、わしのペペロンチーニはまだかのう?」
「お義父さん、さっき食べたでしょ。しかも冷えたカルボナーラに、見たこともない変な紫色の液体かけた後ぐっちゃぐちゃに混ぜて」

「そうかそうか、あれはどうした、えー、孫のロベルトはまだ学校から戻らんか?」
「お義父さん、ロベルトはもう勤め人ですよ、十年も前からね。更に言うとロベルトは私の大切なアントニオを自殺未遂にまで追い詰めた最悪な同級生で、お義父さんの孫はアントニオですよ」

「そうか。ミケランジェロ! ミケランジェロは何処じゃ! さっきまでわしの膝におったのに」
「お義父さん、ミケランジェロは三年前に死にました。あと、ミケランジェロは生まれた時から子牛ほどもある偶蹄類の一種なので、始めっから膝には乗りませんよー」

「うむ、そろそろピッツァが焼ける頃じゃ。ピッツァは石焼きに限るの。ああヨーコさん、アンチョビは乗せんでくれよ、わしは犬の肉だけはダメなんじゃ」
「お義父さん、うちに焼き釜なんてありませんよ。ついでに言うとアンチョビは鰯ですよー、いーわーしー」

「ヨーコさん、ムッソ・・・」
「・・・うるせえ、このボケじじい! さっきから聞いてりゃ何だ! 何がムッソリーニだあ? この野郎! いい加減にしろ! まいんちまいんちおんなじ戯言ばっかり繰り返しやがって! この腐れ長靴野郎! ナチめ!」

「な、ナチは、ちが・・・」
「黙れファシスト! お前もどうせナチと一緒にさんざん悪いことしてきたんだろう、ああ? ナチの敬礼やってみろ、この豚野郎!」

「わしゃー、わしゃー」
「何だそれは! 窓拭きか! しっかりやれよー、おらー」

「・・・ヨーコしゃん」
「お、何だ。三国同盟か、お前とナチとあたいで枢軸国か? 手を離せ、キ○ガイ! 上等だ、このくそじじい。ナチ連れて来いよ、今すぐ。三秒でな。はい、さん、にー、いちー。ブー!!」

「カーン」
「はあ?」

「オリヴァー・カーンがおる」
「いねえよ、そんなやつ」

「見えるんじゃ、わしには。オリヴァー!」

(續く)

投稿者 yoshimori : April 5, 2006 11:59 PM | トラックバック
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