May 09, 2007

『西葛西、15時23分。』

IT系資格試験を控えて勉強中という男、新品同様の教本をめくっては閉じめくっては閉じ。

「模試って模擬試験の略?」
そうでしょ。

「あー、今苦いこと思い出した」
何すか。

「うちの近所に茂木って美容院があってさ」
いや、待ってください。モギってどういじっても床屋の名前でしょ。

「そうそう、床屋床屋」
微妙な嘘はやめてください。

「いや、それがさ、20年くらい通ってんだけど」
ずっと? 色気づいた歳もあったでしょうに。

「まあいいから。うちの兄貴も昔から通ってて、行くたびによく兄貴のこと訊かれるわけ」
それが苦いんすか?

「いやいや、兄貴は当時大工やってて、『お兄さん大工だっけ?』って毎回訊かれるの、10年間ずっと。しかも、兄貴は何年も前に大工なんて、ケンカして辞めてんのに。でも説明が面倒だから、『ええ、大工ですよー』って嘘ついてる」
まあ、今更話してもしょうがないすね。

「『今では偉くなったでしょう』って訊くから、最近では夢壊さないように『棟梁になる寸前です』って言ってる。ああ、心が痛い」

・・・コドモがサンタを信じてる話じゃないんだから。

(了)

投稿者 yoshimori : May 9, 2007 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?