雨降る古書店街。
数年前まで毎週通っていたカレー専門店へ。
カウンターに向かい、注文を告げる。
後続の客、儀式的に店内全員に向かって「こんちはー」と挨拶。
やべーのが来た風な空気が漂い始め、全員の握るスプーンが緊迫感を醸し出す。
しかも隣に座るのかよ。
男、入店時から誰に話しているか分からない発言を執拗に繰り返す。
固定されたカウンター前の椅子に腰掛けながら、ジーンズの尻ポケットに手を掛けつつ、
「あ、今財布出しますよ」
ってそれは椅子に言ってんのか、手前のケツに話しているのか。
別に前金制でもないのに、カウンターに置かれる野口札。
店員、忙しくて構ってやれない様子。
ようやく彼の置いた野口に気付き、注文を尋ねる。
「えーと、ね、カツカレーにコロッケとシューマイふたつね」
もう聴いてるだけで胸焼けしそうなセレクト。
しかもメニューを告げるところだけ妙に早口。
嫌がらせとしか思えないオーダー。
案の定、注文を繰り返す店員に対し、若干切れ気味に回答。
「カツひとつー、コロッケひとつー、シューマイだけふたつね。で、カレーね、カレー」
改めて聴かされるメニューの羅列に込み上げる熱い想い。
「やっぱりなー」
ってお前、新聞も何も読んでないじゃんか。
ひとり言は行動の説明に相違ないが、彼にはロジックは通用しない。
「あ、例によってご飯少なめにね、例によって例によってね」
常連らしい発言ではあるが、一言も二言も多いと神経はささくれ立つ。
早く帰りたいなあと彼とは別方向に移動しようとも、無情にも椅子はボルトで固定されているのだった。
(了)
投稿者 yoshimori : July 10, 2007 11:59 PM