小雨降る中、クリーニング店よりスーツを受け取り、家路を急ぐ。
緩い傾斜の坂道をコドモを荷台に乗せた若い母親が、潔い立ち漕ぎで風のように追い抜いてゆく。
「もー、お母さんほんとたいへんなだからー。シゲキ迎えに行くでしょー、家帰るでしょー、シゲキ乗せたまま買い物できないから、家に帰るの、分かるー? それが今なのー、こうやってシゲキ乗せてるのが今なの、お母さん今を生きてるのー。でねー、その後買い物行ってから、今度はチエミを迎えに行かなきゃいけないの。チエミを家に送ったら、今度は夕飯の支度よー。しかも、まだお夕飯の内容を考えてないのー、シゲキ考えてよ、あでも、ハンバーグは無しね、あとカレーもね、お母さん今日ハンバーグカレーを広尾で食べたから。知ってる、広尾? シゲキは行ったことないか、あったら怖いわー。もうねとにかくたいへんなだからー、お母さんはー」
シゲキ、コドモとは思えない表情で母親の愚痴を全身で受け止めている様子。
が、頑張れ、シゲキ。
(了)
投稿者 yoshimori : July 12, 2007 11:59 PM