September 05, 2007

『茅場町2-14-11』

転職したばかりという元同僚と待ち合わせ、金融業者の街へ。
新しい職場へは来週から出社するという。
遅れてきた夏休み。

そぼ降る雨の中、「もつ焼」と記された赤提灯を目指し、暖簾をくぐる。
店内は既にスーツの男たちで満たされており、明らかにキャパOVERな様子。

「いらっしゃい。そちらどうぞ」
やたら眼光の鋭い女将が席へと案内する、ていうか顎で指し示す。
我々は階段下のデッドスペースの如き空間に押し込められる。

「何にしましょう」
生ビールを。

「うちは瓶しか置いてないよ」
あ、じゃあ瓶で。2本。

「はい、瓶2丁~」

飛ぶように運ばれる瓶2本。
かつてのサッポロラガーはキリンラガーになり代わっている。

「はい、焼きは何しましょう」
えー、シロとカシラとガツとレバとコブクロとヒナネギ、あとつくね。

「塩? たれ?」
塩で。2本ずつ。

「うちは5本からねー」
あー、5本で。

「はい、シロ、カシラ、ガツ、レバ、コブクロ、ヒナネギ、つくね1丁~」

やべえ、すげえ量がくるぞ。
元同僚は女将の鋭すぎる眼光に萎縮したのか、店内にたったひとりだけTシャツという状況もあいまって、グラスに注がれたビールを空けるピッチが加速度的に上がってゆく。

「はい、これで全部ねー」

怖ろしく狭い板切れの如きテーブルは、串の刺さった色とりどりな肉片で溢れている。
何かを諦めたのか元同僚、これまでの人生の中で一度も口にしたことのないレバ刺しを頼むという。
「何故」と問えば、「食わず嫌い」と即答。
どういう経緯で食べる気になったのかは、黙して語らない様子。

「はい、レバ刺しー。生姜に醤油でねー」

小皿に添えられるのは、先端と根元が焦げた串が4本。
その串、割り箸の代替と理解するまで数秒を要した。

元同僚、慣れない串でレバ刺しをつまんでは落としつまんでは落とす。

「お」
口から出すのは無しね。

「意外といける」
それは何より。

幾つか不安要素はあったものの、無事に完食。
追い出されるように支払いを済ませて退店。

「で、この次は何処に連れてってくれるの?」

君は休みだからいいよな。

東西線と銀座線と井の頭線で帰ります。

(了)

投稿者 yoshimori : September 5, 2007 11:59 PM
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