かつての花街、並み居る物騒な店を潜り抜けてそれっぽい通りへ。
次は現地集合ねなんて言われたら、絶対に真っ直ぐ来れない自信はある。
路地が無数に枝分かれしていて、現在位置が分からない。
既に何軒かやっつけてきているのも手伝い、要介護未遂のまま、ひとの後ろを歩く。
バーらしいバナー
思わず手を合わせてみる
扉を開けると漂う香の向こうに鎮座するは、BUTSU-DAN。
出迎えてくれる従業員は、作務衣姿で文字通りに坊主頭。
手渡されたメニューの行間に浮かぶは、不動明王。
何処を切ってもブッディズム。
ボトルが陳列する棚には雑多な酒に混ざり、中国産の驚異的なリカーが並ぶ。
何を飲んだらいいもんかと、目を泳がせて見る。
「イグアナ酒とかありますけど」
まるごと? そんな大きいボトルあるのか。
「いや、正確にはキノボリトカゲですが」
イグアナちゃうやん。
「2匹入ってますよ」
あ、ほんとだ。『雌雄を漬け込んでいます』って。
「ほんとにオスメスですかね」
いや、あんたが言うな。客に爬虫類めっさ詳しいのがおったら大変やね。『オスとオスしかおらんがな! これどないなっとんねん!』って。
「すんませーん、二丁目に卸すのが混ざってましたー」
二丁目かー。これは?
「あ、それメスメスでしたー」
ってずるいなー。
金針菜(百合科カンゾウの一種で花の蕾を干した食材)を漬け込んだ焼酎でぐだぐだになってきた頃、作務衣の男が紙切れを目の前に示す。
「すんません、映画の撮影入っちゃったんで、このへんでよろしいでしょうか」
撮影? これから?
「ええ、うちの店長が主演するんですよ」
へえー、あのセガール似の。
「セガールに似てますかね? 何かホームレスにインタビューとかするらしいですよ」
ドキュメンタリー?
「たぶん」
曖昧だなー。
体よく追い出され、これからどうしようと同行者に尋ねると、既に決まっているとのこと。
ひとの足元だけを見て付いてゆくと、件のセガールが飲んでらっしゃった。
終電を逃したようなので、タクシーを拾って帰ります。
(了)
※記憶が曖昧なので若干の喰い違いがあるやも知れませんが、ご了承ください。