出張中の父と会う。
午前中の会議を終え、午後からは美術館めぐりをしようと目論んでいた父だったが、自社の会長に捕まり、「次期会長に誰を推挙するか」と父自身の進退すら左右しかねない意見を求められたという。
「俺は誰でもいいんだけど」
誰でもいいんだったら、現会長にもう一期よろしくって言えばいいじゃん。
「厳密に言うと、ルール上は交代の時期なんだ」
会長特権で曲げちゃえばいいじゃん。
「それはまずいだろ。それが通らなかったら立場上あれだし」
じゃあ、現会長に決めてもらえばいいじゃん。
「それは俺も言った。現会長は言葉にはしないけど、俺に決めて欲しい雰囲気があってな」
じゃあ、それっぽい候補立てればいいじゃん。
「ところが、他の連中は年齢的に若過ぎる。若い役員が会長職に就いた前例が無い」
何それ、めんどくせー。
「俺がいちばん面倒臭いよ」
そりゃそうだ。若いってどれくらい若い?
「四十代」
それは若造だな。
「そう、だから無理。結局、今の会長は周りから『続けて欲しい』って言われたいだけなんだ」
話戻ってるし!
「そうだよ。だから困ってる」
もうさ、根回しして現会長もう一期で決定! はい終了!
「それしかないな」
ところで、美術館は行けたの?
「ぎりぎり間に合った」
何を見たの?
ムンクかよ。
父の心象風景を表現するには最適な画家とも思う。
(了)
投稿者 yoshimori : November 16, 2007 11:59 PM