November 16, 2007

『嘆息と諦念』

出張中の父と会う。
午前中の会議を終え、午後からは美術館めぐりをしようと目論んでいた父だったが、自社の会長に捕まり、「次期会長に誰を推挙するか」と父自身の進退すら左右しかねない意見を求められたという。

「俺は誰でもいいんだけど」
誰でもいいんだったら、現会長にもう一期よろしくって言えばいいじゃん。

「厳密に言うと、ルール上は交代の時期なんだ」
会長特権で曲げちゃえばいいじゃん。

「それはまずいだろ。それが通らなかったら立場上あれだし」
じゃあ、現会長に決めてもらえばいいじゃん。

「それは俺も言った。現会長は言葉にはしないけど、俺に決めて欲しい雰囲気があってな」
じゃあ、それっぽい候補立てればいいじゃん。

「ところが、他の連中は年齢的に若過ぎる。若い役員が会長職に就いた前例が無い」
何それ、めんどくせー。

「俺がいちばん面倒臭いよ」
そりゃそうだ。若いってどれくらい若い?

「四十代」
それは若造だな。

「そう、だから無理。結局、今の会長は周りから『続けて欲しい』って言われたいだけなんだ」
話戻ってるし!

「そうだよ。だから困ってる」
もうさ、根回しして現会長もう一期で決定! はい終了!

「それしかないな」
ところで、美術館は行けたの?

「ぎりぎり間に合った」
何を見たの?

「これ」

ムンクかよ。
父の心象風景を表現するには最適な画家とも思う。

(了)

投稿者 yoshimori : November 16, 2007 11:59 PM
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