January 18, 2008

『朝三暮四』

男、ユニク○で購入したというサイズの合わないカーディガンの袖口を振り回しながら、通路の中央を進んで近付いてくる様子。
通り過ぎる人々の視線が痛いほど伝わり、思わず目をそむけてしまう

「知ってました?」
何が? いつもながら話が唐突だな。いいから、袖から手を出せ

「寒いんですよ」
じゃあさ、両手はポケットに突っ込むとかにしろって。

「嫌ですよ」
何で? 絵的に気にしてるわけでもないだろ。

「転んで両の前歯を折ったことがあるからですよ」
あー、きれーな挿し歯やねえ。挿し歯折ったら難儀だしな。

「知ってました?」
あ、話戻してる

「駅前におしゃれなバーができたんですよ」
駅前のどの辺?

「スーパーの横」
おされか?

「いや、もう、スタンディングって感じで、木目調で、ヒノキのあれで」
全然分からん。考えてからしゃべれ。

「とにかく、行きましょうよ。はい、今から、コート着て、はい、立って」
あー、もう鬱陶しいな、腕痛いから、ひとりで歩けるから、離して。

2分後。

「ここです」
あ、おされかも。内装凝ってんな。

「お、メニューに、牛モツとキムチの鍋がありますね」
あれ? おされは?

「何か、鍋を注文した人は奥の座敷に行くらしいですよ」
え? 頼んだの? 座敷? おされは?

5分後、目の前には鉄鍋がぐらぐらぐらぐら

「いやー、冬はやっぱり鍋ですねえ」

いや、そらまあ否定しませんけどね、当初の目的とすりかわってやしませんかと、煮えた鍋をつつくのだった。

(了)

投稿者 yoshimori : January 18, 2008 11:59 PM
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