静岡弁ってさ、「~ずら」とか言うの? といじり倒していたら、微かに首を振り、瞳を若干潤ませながらも静かに語り始める。
「昔、うちの地元で船が陸に上がったんですよ」
何かメルヘンな話をしようとしているな。
「いや、事実ですよ。僕がかなり小さい頃に物凄い台風があって、清水の港を出た船が柏原っていう海岸から、うちのばあちゃんちの近所まで打ち上げられたんですよ」
それは、どれくらいの距離なの?
「歩くと10分くらいですかね」
すげえな、それ。
「で、当時かなり話題になって、近所の人が写した『船が陸に上がる瞬間』の写真を、うちのばあちゃんががっつり焼き増しして、見物に来た人に売ってたみたいですよ」
ばあちゃん、商魂あるな。
「うちのばあちゃん、そういうキャラなんで、家族が大変苦労しました」
え? そういう話だっけ?
(了)
補記:
1979年10月19日、ゲラテック号(インドネシア船籍、6320トン)は、救援米を運搬する為、清水港から出航し台風20号に遭遇。
柏原海岸より打ち上げられた船体は直立状態だったという。
海岸より北方にある立圓寺(りゅうえんじ)には、ゲラテック号の赤い錨(いかり)が鎮座ましましていて、当時の様子を今に伝えている。