ふらりと立ち寄った蕎麦屋で蕎麦味噌をあてに熱燗を飲ってるてぇと、不意に引き戸ががらりと開かれて、片手で暖簾を分けながら顔だけ出す男、「大将、七人だけどいいかい」なんてぇ断りを入れてるようだが、店側の返答も待たないまま、歳の頃なら四十前後の男たちが都合七人入ってぇ来て、四人掛の卓をふたっつに分けて座り、めいめいに酒や蕎麦を頼んでいる。
これが意外と騒々しく、気にならないと言えば嘘になる。
とはいえ、蕎麦切り、蟹味噌豆腐、古漬けをやっつけて、〆の蕎麦に掛かろうかとしている為、まだ店を出るわけにもいかない。
ものの半刻もすると、水を打ったような静けさが店を包み、何が起こったのか分からないまま、七人の内のひとりが外へ出てゆく。
見ると、店内に残る七人の中のひとりの男が、眠っているのかあれなのか不安になるくらい、微動だにせず椅子に座っている。
「岡村さん、岡村さん、帰るよ。ねえ、岡村さん、岡村さん、帰りますよって。ほら、内田君がホテルに部屋取りましたから。岡村さん、岡村さんってば、起きてくださいよ。お店にもあれですから、岡村さん。ホテル、ホテル行きましょうよ、ねえ、岡村さん。はい立って、はい立って、立ってくださいよ、岡村さーん」
駄目だこりゃ、と四人掛かりで「せーの」と岡村さんを持ち上げ、店外に連れ出そうとしている。
岡村さん、さすがに目が覚めたらしく、寝起き&泥酔の言えてなさで、
「あひゃのかびゃん」
と自らの鞄を探している様子。
「内田君がホテルで待ってますから」
と、連れは鞄も内田君と共にあると説明している。
しかし、ここが新宿二丁目だけに、もろもろの発言にどきどきしますな。
(了)
投稿者 yoshimori : March 13, 2008 11:59 PM