何かに乗っかる、便乗するてぇひとがいますな。
決して先達にも開拓者にもならない、永遠の追随者ってぇことですかな。
もっとも、それが楽な立ち位置ではあるんですがねぇ。
長屋の隣室に暮らす牢人清十郎より、向島へ鯊釣りに行くから大根でも煮て待っておけなんてぇ言われた八五郎、言葉そのままに手前の鍋で大根をぐつぐつぐつぐつと煮続けるも清十郎は待てど暮らせど帰って来ないまま、何でぇつまらねぇと手酌で酒呑むってぇと不貞寝してしまいますがねぇ、夜中にふと目を覚ますってぇと、清十郎の部屋から若い女子の声がするんで、壁に火箸で穴を開けて覗いてみるってぇと、清十郎が別嬪と仲睦まじく乳繰り合っている様に見えますな。
「キーッ! 何でぇ、あの牢人野郎、釣りに行ったかと思えば、あんな若い女をこんな夜中に連れ込んで、いちゃいちゃいちゃいちゃと!」
夜が明けて八五郎、清十郎に詰め寄りますな。
「先生! あの女なんなんですかっ! あっしはねぇ、大根煮ながら待ってたんですよ! 先生がハゼ釣ってくるって言うから! なのにあんな夜更けに、女といちゃいちゃいちゃいちゃい・・・」
「すまぬ、八五郎。実はハゼは釣れなんだ。代わりに頭骨を釣ってしまい、寺へ持ち寄って供養したところ、件の礼と言うて、頭の持ち主が訪ねて来たのだ」
「いちゃいちゃいちゃいちゃ、えっ? するってぇと何ですかい? あれはゆうれ、幽霊!」
「左様、あれは・・・」
「先生、竿さおさおささお貸して、竿貸して!」
「えー? ていうか、話聴けよ」
「いいから、竿貸して。すぐ返す今返す後で返すたぶん返すきっと返す!」
八五郎、半ば奪うようにして、竿を携えて向島までやって参りますってぇと、辺りは釣り人であふれておりますな。
「おぅ! 骨は釣れてるかぁ、骨は!?」
この時既に八五郎の脳内では「骨」=「美人の嫁」ってぇ公式が出来上がっておりますんで、フルテンションの妄想で「骨」を探しますってぇと、釣り人及び魚方面に多大な迷惑を掛けますな。
「あたしゃ~年増が~好きなのよ~、とくらあ、あ、わー!」
と水に落ちて、『野晒し』の一席で御座いました。
(了)
投稿者 yoshimori : April 14, 2008 11:25 PM