実は、と大した話でもないのだが、未だ着用の日の目を見ない紋付羽織袴が実家にあるという。
黒羽二重の五つ紋には、家紋である「三つ追い柏」が白く染め抜かれている、はずだ。
定紋:三つ追い柏
はずだ、って曖昧なのは、実家の何処にしまわれているのかが分からないからだ。
探すのも骨折りなくらい広い蔵があるとか、ましてや衣装部屋に箪笥が幾棹もあるわけではなく、
「お前も幾つになったんだい、そろそろどうなんだい? 孫の顔が」
というデリケートな話題に触れられたくないから訊けない、訊けるはずもない。
とはいえ、着たい。
和服生活が可能なのは、伝統芸能に携わるか、老齢の作家になるぐらいしか手段が無い。
白足袋履いて、仙台平袴に脚を通し、長着を身に付け、角帯締めて、羽織を羽織るってぇと、雪駄を突っ掛けて、白扇子と手拭いを持つってぇと、成人男子婚礼時の正装とはいえ、あたしの場合ってぇと、高座に上がるぐらいしかテンションが上がりませんな! (土下座)
(了)
<20100729追記>
実は当家の定紋、「三つ追い柏」ではなく、「丸に三つ追い柏」である。
2010年になって、墓石に刻まれたそれを確認したが、今更ではあるな。