出欠ってぇと、出るか出ないかの是非を問うってぇ確認作業なんですがねぇ、これが出血なんてぇと穏やかじゃいられませんなァ。
思わせぶりな前振りに何の意味も御座んせんがねぇ、早退にも似た時刻に職場を離れ、向かう先ってぇのは、たった三人が出るってぇだけの寄席で御座います。
『第九十回中目黒寄席』 中目黒落語會
前座■春雨や 雷太 「元犬」
当会で初めて前座を観ましたィ。
前座は羽織なんてぇのは着られませんから、噺に入るタイミングで脱ぐってぇ芸が成立しません。
坊主頭で背も高く痩身、声がよく通るんってんで、僧侶にして読経でもさせたいですな。
噺はてぇと、白犬が神信心して人間にしてもらい、下男として奉公しまして、その奉公先の旦那、女中のおもとに用を言い付けようと呼びます。
「もと(元)は居ぬ(犬)か」
「今朝、人間になりました」
二ツ目■五代目 柳家 小蝠 「青菜」
名前たァ裏腹に恰幅が良い方ですな。
後で知るんですが、かつては立川一門に居たんですがねぇ、上納金を滞納して破門にされたなんてぇ過去がありまして、亡くなった十代目 桂 文治 門下を経て、現在では二代目 柳家 蝠丸の前座名を頂いてるってぇわけですな。
得意先の旦那の家で馳走になる植木屋、旦那より青菜を勧められるんですがねぇ、実は青菜は切らしていて、客人の手前無いとは言えない奥方は、
「旦那様、鞍馬山から牛若丸が出でまして、その名(菜)を九郎(喰ろう)判官」
なんてぇ、「菜を喰ろう」てしまって既に無いとを告げるってぇと、旦那もすぐに解し、
「義経にしておきなさい」
と御屋敷言葉で返します。
植木屋、奥方と旦那の洒落た遣り取りに感化され、自宅に帰り女房と打ち合わせ、友人を呼んで再現しようとするんですがねぇ、女房に奥方役ってぇのが務まるはずも無く、余計なひとことが植木屋の意図と反するんですな。
「旦那様、鞍馬山から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官義経」
「・・・弁慶にしておきなさい」
真打■桂 南なん 「佐々木政談」
「フラがある」なんてぇ落語用語がありまして、何てぇ言いますかねぇ、その人の資質ってぇ言うんですかねぇ、にじみ出るおかしさを指す褒め言葉ってぇもんですな。
南なん師匠、ぶっちゃけて云いますてぇと、顔面が崩壊しておりましてねぇ、いわゆる山谷にいるイイ顔の親父系なんですなァ。
抑えたトーンで訥々と話す語り口は、客を自らの創り出した世界に引き込んで止みません。
南町奉行、佐々木信濃守を真似ての「お裁き」ごっこに興じる桶屋の倅、大人も感心する見事な裁きを本人、信濃守に目撃され、白洲に呼ばれてしまうんですがねぇ、信濃守との問答により桶屋の倅にしとくは勿体無いってぇんで、数年後には信濃守の近習にすると約し、町人出世の目出度い一席で御座います。
仲入り
二ツ目■五代目 柳家 小蝠 「長短」
再び、小蝠あにさん。
今月は五代目 柳家 小さんの七周忌ってぇことで、連日何処かの寄席で柳家一門はこの「長短」を演じてると聞きますな。
ひとことで云いますてぇと、気の長ーい男が短気な男の袖に入った火種を「早く消した方がいい」と告げるだけの噺なんですな。
真打■桂 南なん 「千両蜜柑」
南なん師匠、再び。
師匠の顔だけで笑いが起きますってぇと、マクラ無くいきなり本題に入ってましてねぇ、「番頭さん」ってぇ旦那が普通に話してるだけなのに、何故か可笑しいんですな。
若旦那が心の病に倒れ、番頭が問い質すと「蜜柑が食べたい」なんてぇ言うんで、方々を駆けずり回ってようやくひとつだけ手に入れるんですがねぇ、これが文字通り値千金ってんで、千両箱を担いで買い取るってぇと、若旦那はすぐに快復するってぇだけの噺なんですがねぇ、若旦那が分けてくれた父母と番頭の分、三袋を眺めるってぇと溜め息が止まりません。
「これが三百両・・・」
番頭、蜜柑三袋を持って何処かに逃げてしまうんですなァ。
追い出しが鳴るてぇと、般若湯を求めて渋谷方面へ移動します。
(了)
投稿者 yoshimori : May 26, 2008 11:59 PM