渋谷より山手線に乗って新宿三丁目まで来ましてねぇ、とんとんとんとんと階段を上がるってぇと、ひとひとひとの行列と幟が幾本か見えますな。
新宿末廣亭、六月上席夜の部特別番組、
『五代目柳家小さん七回忌追善興行 小さんまつり一門勢揃い』で御座います。
入場に時間を要したってんで、柳亭 小燕枝師匠と柳家 さん福師匠の口上を聴き損ねましてねぇ、既に演目が始まっている上に立ち見ってぇ有り様ですな。
落語 ■ 柳家 さん福 「浮世床」
越前朝倉家家臣、真柄十郎左衛門の刀が五尺三寸なんてぇ台詞が出てくる、知らない噺でしたな。
落語 ■ 柳家 さん枝 「手紙無筆」
「無筆」ってぇと、読み書きできないってぇことってんで、落語にはよくある、無知無教養な男が知ったかぶりの話にいちいち得心もし感心もするってぇ運びでねぇ、最後まで内容が見えないもやもやいっぱいですな。
落語 ■ 柳亭 市馬 「芋俵 (芋泥)」
市馬師匠、ネタかぶりじゃあ御座んせんか。
山形にある高校に呼ばれて高座に上がったってぇマクラ、「校長の名が高橋与太郎だったんですな」ってぇのもおんなじじゃ御座んせんか。
他の噺が聴きたかったですな。
太神楽 ■ 柳貴家 小雪 (やなぎや・こゆき)
小雪ねえさん、太神楽曲芸ってぇカテゴリーん中じゃあ、きれいめでらっしゃるんでしょうな。
この方、水戸大神楽の宗家の出自てんで、実父である十八世家元、柳貴家 正楽に師事して八歳で初舞台ってぇプロフィールなんですな。
年齢は公表してませんがねぇ、「昭和59年:初舞台」が八歳なんてぇと、あたしのふたっつしたじゃあ御座んせんか。
何故か、柳家小三治一門に数えられますな。
落語 ■ 柳亭 小燕枝 「権助提灯」
マクラ、悋気小咄。
悋気(嫉妬)の果てに女房の浮気が心配ってんで、出掛けたと見せかけるってぇと、即座に自宅に引き返し、間男を探しますがねぇ、見つからないってんで窓から外を眺めるってぇと、全速力で走り去る男を見付け、憤激した男は冷蔵庫を窓から放り投げ、走り去る男を圧死させてるってぇと、自らも命を絶ちますがねぇ、あの世にて尋問が始まりますな。
「どうして死んだのだ」
「それがですね、ジョギングしてたら空から冷蔵庫が降ってきたんですよ」
「お前は?」
「ジョギングしてる無実の男を冷蔵庫で殺してしまい、お詫びのしようも無いので自ら命を絶ちました」
「で、お前は?」
「いや、あれなんですよ、冷蔵庫の中に入ってたら、外に投げられちゃって大変でした」
落語 ■ 柳家 小袁治 「長短」
マクラ、五代目小さんのおかみさんエピソード。
先代小さんは自宅に剣道道場を所有しておりますってぇと、弟子にも稽古を付けていたってぇはなしですな。
夏の暑い盛りに道場で涼んでいるおかみさんが大の字になって寝転んでいるところへ通り掛かった小袁治師匠に対し、おかみさんがなんとなしに放ったひとことがってぇと、
「何も履いてないの」
赤羽に掛かり付けの医師がいるってぇおかみさん、贔屓の先生にタニマチが如くいろいろな贈り物をしていたそうですな。
ある日、胃痛を相談したおかみさん、主治医より「検便を」と言われ、自宅にてそんなに要らないだろうってぇ量が入る容器に目いっぱい詰めるってぇと、「これ先生んとこに持ってって」って食事中に預かった小袁治師匠、化粧箱にそっと入れ、包装紙で丁寧に包むってぇと、赤羽へ。
「先生、おかみさんから預かってきました」
「あ、そう、悪いねー、いつもいつも。ありがとうね、おかみさんによろしく言っといて」
あれ以来、赤羽には降りたことがないってぇ小袁治師匠でしたな。
落語 ■ 入船亭 扇橋 「鶴」
扇橋師匠、素で首がゆらゆらゆらゆらと揺れてますな。
隠居役で揺れてるってぇのは素晴らしい役作りなんですがねぇ、八五郎も揺れるってぇと何だか分かりゃしません。
八五郎が泣く仕草が愛らしいですな。
落語 ■ 柳家 さん八 「替り目」
さん八師匠、夜に犬歯が抜けたってぇんで、とりあえずと食卓に置いてその日はそのまま寝てしまい、翌朝目覚めるってぇと、置いた犬歯が無いってんで探すんですがねぇ、見つからないまま朝餉の時間になりまして、箸を取ろうとすると、箸置きとして第二の人生を歩み始めた犬歯を見付けますな。
お楽しみ ■ 柳家 権太楼・さん喬
権太楼師匠、リクエストにて「奴さん」を踊り、さん喬師匠が拍子木を打ちます。
替わってさん喬師匠、手拭いを姉さん被りするってぇと、「なすかぼ」なんてぇ踊りを踊りますな。
粋でげす。
落語 ■ 柳家 小三治 「小言念仏」
むにゃむにゃとしか聞こえない読経の途中、家人への細けぇ小言が入り、這ってきた孫をあやし、表を売り歩く「泥鰌屋!」と大声で呼び止めるってぇと泥鰌を買い、鍋で煮殺すまでを指導。
扇子を木魚に見立てるってぇと叩き続け、オフビートな時間は過ぎてゆくってぇ運びですな。
ここで、お仲入りで御座います。
対談「二人で言いたい放題」 ■ 柳家 小三治・入船亭 扇橋
扇橋師匠、小三治師匠の並ぶ左右には先代小さんの遺影。
扇橋師匠の先代小さんエピソード。
「師匠は地震が大嫌いでしたね。私が庭で洗濯物を干してる時に地震があって、二階にいる師匠から『オイッ、危ねぇから二階に上がって来いッ』ってのを覚えてますね」
「それだけ?」
「うん」
「他には?」
「別に」
「別にって・・・」
扇橋師匠、自由にも程があるってぇくらいに先代小さんからずんずん話が離れてゆきましてねぇ、「従兄弟が会場に来ている」、「うちの地元にはこんな大きいカエルが」と脱線も甚だしく、おかみさんから教わった曲を唄うってぇと、「それは富山に行った時に地元の人に教わったんだ」と小三治師匠から叱責され、対談ってぇいいますか、扇橋師匠のオフビートな語りに会場は固唾を呑んで見守りましたな。
先代小さんを評して「いい意味で放し飼いでした」という小三治師匠、〆のひとことはってぇと、
「こんな扇橋ですが、皆様どうか宜しくお願いします」
落語 ■ 柳家 小さん (六代目) 「幇間腹」
当代小さんについては特に申し上げることが御座んせん。
幇間(たいこもち)の一八が若旦那の素人鍼に刺され、腹の皮が破れるってぇ、それだけの噺ですな。
奇術 ■ アサダ 二世
漫才、あした ひろし・順子の代演ってぇことですな。
「こう見えても、一門なんですよー」なんてぇどうにも頼りないんですな。
主任 ■ 柳家 花緑 「笠碁」
碁仇のふたりが「待った」「待った無し」ってんで喧嘩別れするんですがねぇ、どうにもふたりだけの碁が忘れられるわけもなく、雨の日に被り笠で出掛けるってぇと、互いに顔を見て口論になりかけるんですがねぇ。「ヘボかどうか、一番どうだ!」ってんで、やはり「碁」で仲直りするんですな。
花緑師匠、何がどうとかってぇわけでもないんですがねぇ、安定感のある振れ幅の少ない高座をこなすんですな。
師匠のべったべたな人情噺なんてぇのも聴きたいもんですな。
追い出しが鳴るってぇと外へ出され、入場前に予約した最寄のタイ料理店を目指して移動しますかねぇ。
(了)
投稿者 yoshimori : June 8, 2008 11:59 PM