目を覚ますってぇと、何の用事も所用も無いってんで、渋谷と新宿三丁目が直で繋がったばかりの副都心線なんてぇのに乗っかりましてねぇ、新宿三丁目にある定席に向かいますな。
木戸銭払おうとするんですがねぇ、従業員の方が席数の確認をしてる様子でして、下手打ちゃ立ち見かと萎えそうになりますってぇと、「あと八席」なんてぇかなりの滑り込みなんですな。
新宿 末廣亭 六月下席 夜の部で御座います。
さらくち ■ 林家 はな平 「味噌豆」
人目をはばかってはばかりん中で煮豆を喰ってたら、番頭が帰ってくるってぇと小僧を呼び出し、入れ替わりに同じ考えの番頭が入って煮豆を喰い、再びはばかりに戻った小僧が番頭と鉢合わせするってぇと慌てて答えるんですな。
「お替り持って参りました」
二ツ目 ■ 柳家 ろべえ 「初天神」
師匠は柳家 喜多八ってぇいいましてねぇ、本日のトリを務める小三治師匠の弟子なんですな。
二ツ目に上がった際に貰った「ろべえ」、実は『東海道中膝栗毛』に登場するふたり、弥次喜多からの命名ってぇいいますな。
師匠が喜多八ってんで、相方の「弥次郎兵衛(やじろべえ)」の名を貰うってぇ大変有難ぇはなしだったんですがねぇ、
「お前にはまだ早ぇから、半分しかやらねぇ」
てんで、「やじろべえ」を半分ぶった斬って、「ろべえ」なんですな。
噺家が高座に上がってるってぇのに、右側桟敷に座る中年男性と従業員が揉めている様子でしてねぇ、客もろべえ兄さんの噺よりもそっちばっかりに気を取られ、気もそぞろってなもんです。
で、従業員の方は何とか中年男性を外へ連れ出すんですがねぇ、泥酔されてるのか大声で騒いでるのが寄席まで聴こえてくるんですな。
目の前を女子従業員が泣きながら、「もうやだ」なんてぇ駆け抜けてゆきましてねぇ、興行物の苦労をかいま見たってぇ感じなんですな。
其の所為かどうか分かりゃしませんが、ろべえ兄さん、父親が息子から凧を買わせられる前の団子屋台で蜜を舐め切った団子を蜜壺に突っ込むシーンで高座を降りてしめぇましたな。
漫才 ■ 笑組 (えぐみ)
立ち位置左側の方、大変恰幅の良い体型なさっておりまして、劇団ひまわり所属の元子役なんてぇいいましてねぇ、さぞかし限定された役ばっかりだったろうなんて感じなんですな。
後で小袁治師匠からプロ野球好きってんで、「読売キ○ガイ」なんてぇ、呼ばれておりましたな。
右側の方はすっかり禿げちらかしているってぇのに、「前髪切り過ぎちゃった」って仰ってましてねぇ、途中早口過ぎて何を喋ってるのか分からないのが面白いことになってましたな。
トークはってぇと、元子役に絡めてテレビドラマのストーリーに及びましてねぇ、
「皆さんはROOKIESよりも小三治師匠なんですよね」
なんてぇ、会場からは拍手が起こるってなもんです。
落語 ■ 柳家 はん治 「鯛」
はん治師匠は二度目なんですがねぇ、前回も桂 三枝原作の噺を高座に掛けてらっしゃいましたな。
上方の噺家と何らかの親交があるんでしょうかねぇ。
噺はってぇと、料亭の生け簀に入れられた新入りの鯛、一週間も泳いでいられないはずなんですがねぇ、創業時から二十年もいるってぇ生け簀の主からまた海に戻れる諦めるなと諭されるんですな。
「ボーイズ・ビー・アンビシャス。少年よ、大志を抱け」
落語 ■ 古今亭 志ん橋 「二人癖」
「つまらねぇ」、「酒が飲める」なんてぇのが口癖のふたり、口癖を言った者が負けなんてぇ賭けをしようってぇ運びとなりましてねぇ、互いにそれぞれのNGワードを言わせようってんで、戦略を練りますな。
0-1のリードでうっかり「つまらねぇ」なんてぇ漏らした男から五十銭を受け取った男、油断から「酒が飲める」なんてぇ言っちまいやしてねぇ、「差っ引きだ!」とまた取られちまうんですな。
紙切り ■ 林家 正楽
番組表を見るってぇと、津軽三味線奏者、太田家 元九郎師匠と入替みたいですな。
いつもの衣装とは違って正楽師匠、濃い青の和装でしたな。
定番、ご挨拶代わりの「相合い傘」を切り抜きますってぇと、客からの注文で「金色夜叉、貫一お宮」、夏らしく「螢狩り」なんてぇお題が出来上がりますな。
落語 ■ 柳家 小袁治 「(演目不明)」
寄席文字ってのが御座いましてねぇ、験を担ぐってんで、「隙間を詰める」、「右肩上がり」を条件に書かれますってぇと、「小」なんてぇ隙間だらけですからねぇ、「山」みてぇな仕上がりになるんですな。
師匠の五代目小さん、「山さん」なんてぇ、醤油醸造業者みてぇな名前で呼ばれたり、九代目正蔵の前名、「こぶ平」なんてぇ、「てぶ平」に見えちまうんですな。
「だから、『袁』の字が『哀れ』とか『衰える』に見えても気にしないでください」
磯六てぇ名の商家の若旦那、剣術稽古で鍛えに鍛え、居合いの技を披露しようってんで、町で会った男の持つ愛玩用の南京鼠を「やーっ!」なんてぇ掛け声と共に力が入り過ぎるってぇと、うっかり圧殺させちまいましてねぇ、鼠の目ン玉が飛び出してるのを見て、「春になれば新芽が出る」なんてぇ言い捨てるんですな。
ひでぇ噺があったもんで。
落語 ■ 五街道 雲助 「強情灸」
雲助師匠、胴間声ってんですか、声はよぉく通るんですがねねぇ、江戸弁過ぎて分からねぇ箇所もあるんですな。
灸の我慢を自慢する男、馬糞みてぇな百草(もぐさ)の塊を腕に乗っけるてぇと、我慢に我慢を重ねた挙句、「冷てぇ!」なんて叩き落とし、何処までも強情なんですな。
「五衛門はさぞかし熱かったろうなぁ」
奇術 ■ 花島 世津子
背の高い年齢不詳な方でしてねぇ、何故か小三治門下なんですな。
客席に向かって新聞紙を見せ、引き裂き始めるってぇと、。
「一枚が二枚、二枚が三枚、三枚が四枚、四枚が五、ご、ごま、硬い、かたい、あ、日経だ」
なんてぇくすぐりもはさみつつ、引き裂かれた筈の新聞紙が元通りに戻るんですがねぇ、これが『東スポ』なんですな。
代演 ■ 桃月庵 白酒 (とうげつあん・はくしゅ) 「米揚げ笊」
柳家 〆治師匠の代演でしてねぇ、
「今朝、〆治師匠から『声が出ない』なんて電話がありまして、代演の白酒です。しろざけ、パイチュウではありません」
縁者のマクラが面白いってぇと、根多の記憶が薄くなりますな。
落語 ■ 柳家 さん喬 「千両蜜柑」
さん喬師匠、当日十四時からの吉祥寺にある前進座劇場にて一番弟子の喬太郎との親子会を終えて駆け付けたんですな。
満席の寄席を評しましてねぇ、
「いっぱいのお運び有難う御座います。二階席が船みたいですね。・・・三年前でしたかねぇ床が抜けたこともあるんですよ」
なんて物騒なことを言い放つんですな。
で、吉祥寺での一席と同じ演目でしたな。
お仲入りで御座います。
くいつき ■ 柳亭 燕路 「もぐら泥」
燕路師匠、泥棒噺が似合いますな。
本人は喜ぶかどうか分かりゃしませんがねぇ。
太神楽 ■ 柳貴家小雪
毎度素晴らしい芸を見るばっかりでおりますと、太神楽の失敗ってぇ想像できませんな。
一瞬で空気を変えてしまうってぇのは、さぞかし恐しいでしょうな。
自分との闘いなんでしょうな。
落語 ■ 入船亭 扇橋 「鶴」
扇橋師匠、また同じ演目です。
八五郎がめそめそっと泣くくだりは相変わらず愛らしいんですな。
代演 ■ 桂 籐兵衛 「饅頭怖い」
春風亭 一朝師匠の代演ですな。
淡々とまとめられた感がありましたな。
津軽三味線 ■ 太田家 元九郎 「津軽ハイヤ節」「十三砂山」「津軽じょんがら節」
熊本の民謡が津軽に渡るってぇ流れもあるんですな。
謡が北前船に乗って渡って来るってぇのは、なかなか風情がありますな。
「わだす、こう見えても竜飛崎(たっぴざき)の生まれなんよ」
あはははは。
「いや、あははじゃねぇって」
夜主任 ■ 柳家 小三治 「千早振る」
何が凄いって、扇橋ねぇ、あれだけ何を言ってるか分からなくて受け入れられてるのが凄いですねぇ、あの人、歳喰ってから訳分かんなくなった人じゃないんですよ、前座見習いの頃から既にああでしたから、昨日NHK観てたんですけどねぇ、伊達公子十一年振りに復活したんですねぇ、今やってますでしょ、イギリスの、ねぇ、ほら、あのー、プノンペン? いやプノンペンじゃねぇな、えーと、ウィンブルドン! そうそうウィンブルドン、で、旦那がF1レーサーなんですよ、ガイジンですよ、その旦那実は伊達公子が世界的プレイヤーだったってことを知らなかったらしいんですね、旦那に励まされて一度引退したテニスやることになったんですな、わたし三週間くらいアメリカに行ってた頃があるんですよ、死ぬまでに字幕無しで英語の映画を観たいなと思って、いつの日か不意にわたしが引退したら、アメリカに行ってると思ってください。
師匠が渡米してしまうってぇと、師匠の高座が観らんなくなってしまうのは大変残念でげすなぁ、なんてぇしみじみ思うので御座います。
寄席を追い出されるってぇと、般若湯なんてぇ求めて都営新宿線に乗っかりますな。
(了)
投稿者 yoshimori : June 28, 2008 11:59 PM