金庫の如き重厚な扉が備わった鉄製のキャビネット。
職場の上長、自らの指を挟みそうになり、「あっぶねぇっ」と小さく叫んでいる。
だ、大丈夫ですか?
「あ、うん。ギリで」
気を付けてくださいよ、指の骨こなごなになりますよ。
「前にさ、これと同じ型のキャビネの引き出し閉めててさ、上司の手を挟んだことがある」
えー? 大惨事じゃないですか。
「人間、ほんとに痛いときって声なんて出ないんだね」
で、その上司は平気だったんですか?
「まあ、骨は折れてなかったみたいだし、打撲程度だったんじゃないかな」
いやー、でも折れてたりしたら、その後の立場が微妙になってましたね。
「微妙も何も、全然別件でその上司にムカついてぶん殴っちゃったけどね。あの時点で俺の人生は終わったんだ」
終わったんだ、って目が悲哀に満ち満ちていて笑うに笑えない。
(了)
投稿者 yoshimori : July 9, 2008 11:59 PM