July 09, 2008

『終ノ局』

金庫の如き重厚な扉が備わった鉄製のキャビネット
職場の上長自らの指を挟みそうになり、「あっぶねぇっ」と小さく叫んでいる。

だ、大丈夫ですか?

「あ、うん。ギリで
気を付けてくださいよ、指の骨こなごなになりますよ。

「前にさ、これと同じ型のキャビネの引き出し閉めててさ、上司の手を挟んだことがある
えー? 大惨事じゃないですか。

「人間、ほんとに痛いときって声なんて出ないんだね
で、その上司は平気だったんですか?

「まあ、骨は折れてなかったみたいだし、打撲程度だったんじゃないかな」
いやー、でも折れてたりしたら、その後の立場が微妙になってましたね。

「微妙も何も、全然別件でその上司にムカついてぶん殴っちゃったけどね。あの時点で俺の人生は終わったんだ」

終わったんだ、って目が悲哀に満ち満ちていて笑うに笑えない

(了)

投稿者 yoshimori : July 9, 2008 11:59 PM
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