父が上京するというので、待ち合わせた宇田川町、十九時半。
久方振りに、近所に住まう南宋画の大家を見掛ける。
「あたしね、今、個展やってるのよ」
へぇー、六本木ですか?
「違うわよ、京都よ、京都」と招待状を手渡してくれる。
ほう、京都市美術館って立派なもんですね。
「日曜までだから行って来てね」
えーと、もらっといて何ですけど、京都は遠いなあ。ご自分は行かれないんですか?
「あたし? あたしは無理よー」
何でまた。
「狭心症なの」
心臓が悪いんですか?
「んー、例えば、新幹線乗ってて隣の席に知らない人が座ってるでしょ?」
はあ。
「で、その人が携帯電話をかちゃかちゃいじるわけ」
え? ペースメーカーなんですか?
「違うの。その携帯かちゃかちゃにイーッッてなるから、電車に乗れないの」
銭持ってんだから、グリーン車で一列貸し切ればいいじゃんか、もー。
(了)