November 13, 2008

◆『鳶、牛、幻』

久方振りに晴れましたってんで、ふらふらと外へ出ますってぇと、銀座線に乗りましてねぇ、上野広小路で降りますってぇと、テケツで木戸銭なんてぇ落としまして中へ入ります、と、今まで見たことのない寄席の風景が其処にあるンですな。
既に座っている老人全てが弁当を突付いておりましてねぇ、団体が二組入っただけで客席が埋まってるンですなァ。
しかも前列に座る団体と後列に座す団体、所属が違うようでして、ガラと云いますかニンと云いますか、後ろの輩は全く以って其れが皆無なんてんで、演者がいても喋り倒していましてねぇ、どうにかするってぇと、前後で乱闘にならねぇもンかと危惧して止まないンですな。
演者の方々はさぞかし演り難ィかったでしょうなァ。

開口一番■三遊亭 歌る美 「牛褒め」
「穴が隠れて屁の用心」

二ツ目■古今亭 菊六 「湯屋番」
古今亭一門では、舞台となる湯屋は「浜町・梅の湯」なんですなァ。

「何か云ィながら登ってるよゥ」

奇術■アサダ二世
アサダ先生、客いじりが長ェってんで、思わず席を立ちたくなりますな

落語■古今亭 菊太楼 「饅頭怖い」
「苦いお茶が怖い」

落語■柳亭 市馬 「出来心」
市馬師匠、「芋俵」を演る時と同じ、「招かれた高校の校長の名が与太郎」なんてぇマクラだったンで一瞬がっかりしましたがねぇ、別の「泥棒噺」なんてんで、ほっ胸を撫で下ろしましたな。

「下駄を忘れてきちゃった」

漫才■大空遊平・かほり
妻が夫を蔑む芸風のコントラストがくっきりし過ぎて、退出の頃には夫役の方を心底憐れむンですな

落語■入船亭 扇遊 「狸賽」
「冠被って杓棒持ってる」

落語■古今亭 駿菊 「欠伸の稽古」
「湯屋のあくびはどうですかねぇ。これはまず『うなり』から入り、『都々逸』を経て、『あくび』、最後は念仏です」
本題、「夏のあくび」を経てサゲに向かいます。

「お連れさんの方がご器用だ」

漫才■大瀬ゆめじ・うたじ
先生方には申し訳無いンですがねぇ、
「多種多様な箸の説明」ロビーで聞いてましたな。

落語(代演)■林家 正雀 「大師の杵」
目当ての柳家 喜多八師匠の代演でしたがねぇ、思わず正雀師匠ってんでちょいと浮かれるンですな。

初めて伺った噺なんですがねぇ、後の弘法大師こと空海における空白の五年間と呼ばれた青年期エピソードなんてんで。
武蔵国橘郡平間村にある名主宅に厄介になる出家僧空海、思いもよらずに名主の娘にぞっこん慕われ、娘の父親からの夜這いの薦めも断って、何故か木彫りの「杵」を拵えますってぇと、其れを置き去りにして逃走しまして、ポジティヴシンキングな娘はこの杵を、
「何これ? 杵? 突いてこい? 付いて来いってことかしら!?」
と解釈も川向こうへ去った空海に追い付けず嘆きに嘆きまして、この杵と共に多摩川に身を投げるってぇ罪な噺なンですなァ。
娘の遺骸は引き上げられますってぇと、空海は娘の父親である名主に「心の妻とします」と告げまして、亡き娘と杵は川崎大師の本尊となったなんてぇ現在に伝えられてるンですな。

正雀師匠、義太夫調で噺を〆ますってぇと、
「外、晴れてるンで踊りましょうかねぇ」なんて、
林家 彦六師匠の真似で「奴さん」を、
中村 歌衛門の振りで「姐さん」を踊るンですなァ。

「はァ~、ごにゃごにゃ~、おと~も~は~ツらィねェ♪」

お仲入りで御座います。

ギター漫談■ぺぺ桜井
「お別れにさよならって曲を聞いてください」
(伴奏)
「(吐き棄てる様に)・・・さよならッ」

落語■古今亭 志ん五 「風呂敷」
志ん五師匠、オールバック真ン中の分け目がくっきり畦道ですなァ。

「上手く逃がしたじゃァねぇかァ」

落語■五明楼 玉の輔 「生徒の作文」
出囃子が「お猿の駕籠屋」でしたな。

粋曲■柳家 小菊
「欽来節」
「蛙ひょこひょこ」・・・寄席スタンダードナンバーへの八番と称し、蛇にょろにょろ~蛞蝓ぬらぬらと続きます。
「(ぎっちょんちょん)」
都々逸「(お酒一樽千両)」

都々逸「雨戸を叩いて~
『もうし、酒屋さん、酒屋さん、夜分遅くすみません』
~呑んでくだ巻かぬような酒 くだしゃんせ」

都々逸「(梯子段上がったり降りたり)」
「かんちろりん」
「櫓太鼓」
「相撲甚句」

トリ■古今亭 菊之丞 「幇間腹(たいこばら)」
「夏に那須塩原に招かれましてねぇ、おッこりゃありがてェ高座の後は座敷でキュッと一杯飲ッて温泉にくーッと入れるなんてぇ思って行ったらですねぇ、看板で大きく『足湯』ってあるンですよ。厭な予感はしたンですが、そこは仕事ですからと高座を眺めますってぇと、其処は一度に百人が入れるってぇのが売りの足湯で、こう何かねぇ、足湯の人がぐるっと囲ンでまして、そンで、こう、真ン中に池がありまして、そこに高座があるンですよ。お客さんも足湯入りながら落語聞いてるもンだから、くらくらしちゃいますしねぇ、そンな聞いちゃァくれませン。たまに目の前の間欠泉からしゃーっなんて湯が噴き出るンですよ。だから、あたしの前は湯気ばっかり。で、それが昼。夜はもっと悲惨で、外ですからねぇ、何にも見えないンですよ。暗闇に向かって落語しましてねぇ、ほんとにお客さんが居るのか不安になって『居ますか~』なんて確認してましたねぇ。で、地元役場の観光課の方が大きな照明を二機用意してくれてたンですがねぇ、山ン中ですから虫がもう凄くて、エェ大変でした」

「皮が破れて鳴らなかった」

平生ですと此処から般若湯なんてぇ運びになるンですがねぇ、親不知が親不孝なんてんで大人しゅう帰路に着くンですなァ。(涙)

(了)

投稿者 yoshimori : November 13, 2008 08:36 PM
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