「あ」
何ですか。
「何か聞こえる」
何ですか、そういうのよそでやってくださいよ。
「違うから。ほら、ほらほらほらって。何これ?」
何これって、僕は何も聞こえませんよ。
「ほら、受験生がさ、使うあれ、赤い字で書いてあるのを赤いプラッチックで、ほら」
赤い暗記シートですか?
「そう、それ。よくそんな単語出てきたな。それが聞こえる」
そういうのよそでやってくださいよー。
「いや、そのシートを・・・」
ソノシート?
「話がややこしくなるから黙って。シートをこう、ほわんほわんていうかびよんびよんていうか、そんな感じで鳴らしたような音」
あー、ディテール細かいけど伝わりにくいっすねー。
「そういうのが左耳から聞こえる。何これ!」
耳掃除してください。
「えー? じゃあ、耳掻き」
ありませんよ。
「無いの? 早く何とかしたいのに! 何か怖いじゃん!」
まあ、気持ちは分かりますけど。
「お前に何が分かる!」
いやだな、当たらないでください。あ、このマイナスドライバーとかどうです?
「耳壊れちゃう!」
うるさい人だなー、もー。
「あ」
何ですか。
「別の音が聞こえ始めた。なんかこう、セロハンがぱりぱりぱりって、ねぇ、ほら!」
・・・いや、もう説明とかいいです、もう。・・・えーと、帰っていいですか?
(了)
投稿者 yoshimori : November 4, 2009 11:59 PM