銀杏なんてぇと、その独特の臭気と苦味で敬遠されがちですがねぇ、酒呑みにゃァアテによろしいってんで、煎り立ての殻をがきりと割りまして、緑色の小粒に塩をちょいとまぶして口に放りッ込みますと、キチゲェ水がぐっと進んで止まらなくなりますなァ。
こんな銀杏野郎にも銘が御座ンして、「藤九郎」なんてぇ歌舞伎役者みてぇな名を頂戴しております。
こいつがよくある銀杏よりゃァ大粒で、倍ぐれェ重ィんですがねぇ、殻の厚さは逆に薄く表面は滑らかに艶があり、しかも長く保存が可能で更に美味であるってんですから、優れた奴でげしょう。
ただ、こいつを剥くのが面倒でしてねぇ、殻の中にゃァ薄ッ皮もありまして、細けェ作業が煩わしかったりしまさァね。
なんて愚図愚図としておりましたら、女の方が剥きましょうかと申し出てくれやしたねぇ。
女の方と云いましても、あたしのおっ母さんぐれェのお女中でしたが。
剥いてもらっといて何なんですがねぇ、時が経つとともにミは冷えて硬くなるもんですから、微妙な味わいになるんですな。
河岸を替えようと席を立ったところで、丁度時間となりましてお後と交代で御座ィます。
(了)