噺家として最も円熟した時期に惜しくも他界した十代目金原亭馬生、師の噺の中には「死」をイメージさせる言葉が繰り返されることに気付く。
滑稽噺でありながらも、時間軸に沿わないところで数名が亡くなっていたというエピソードが後日談として語られるのだ。
とはいえ、それは客の笑い声と変わり、陰湿さは微塵も無い。
が、他の演者は誰ひとりとして殺さない。
未熟な船頭がうっかり落とした船客の死骸は大川から上がり、寂れた旅籠の梯子段を踏み外した旅客は滑落死し、騙された狐のリベンジは股裂きだと脅される初午男は心から怯え、花魁に恋焦がれる若い衆を諭し、「まだ死なないでね、ああいうのは何かというとすぐ死ぬんだから」と搗米屋の女房は決め付けるのだ。
馬生ワールドでは、人命は安い。
何故と問えば、知りたくもない場所に着地するしかないとも思うので止しておく。
酒仙と呼ばれる程に左党だった馬生師、食道癌を患い五十五歳の若さで亡くなった。
期せずして、明日で生誕八十二年を迎える。
(了)
投稿者 yoshimori : January 4, 2010 11:59 PM