May 21, 2010

『五月下席(初日)~下足番』

いつもの、という気の利いた注文なんて通じるはずもなく、また試す気もなく、券売機には当の「いつもの」は品切れで、来店時間を考えると致し方無いのは重々承知だし、上州訛りな店主の小粋な白いゴム長に紺の前掛けの着こなしが眩し過ぎて、決して小奇麗とも呼べない鰻の寝床的な佇まいすらも長年、そうもう十五年以上にもなるかしら、とこの街ノスタルジィに浸る間もなく、受刑者の如く自分の名が番号に置き換えられ、ここでは品名として呼ばれ、湯気すら塞ぐ具は上ッ面を支配し、電飾看板を重そうに運ぶ妙齢の喫茶店従業員♀と幾度も目が合うのは、同じ時間、同じ場所、窓際で縄を手繰る行為が店の開店準備と被るからに相違ないが、そんな事情なんて知る由もなく、ただこの代替品噛み応えのあることよ。

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げそ天

(了)

投稿者 yoshimori : May 21, 2010 11:59 PM
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