十五年前には週末ともなると朝昼を兼ねて一食としていた、学生街にあるがっつり系飲食店、寄る年波を理由として、質より量という戦略が通じなくなったが為の疎遠も否めない。
かつては、日本人に見えない中年女性と「いつもすみません、ありがとうございます」のつもりが平謝りしているようにしか聞こえない接客をする店主だけの店だったが、今では若い男子従業員が談笑交じりに客を捌いてゆくというスタイルで、代替わりを肌で感じる。
とは云え、以前と味が変わるわけでもなく、ただ若造らしいうっかり、例えばどの品にも必ず付属するアイス珈琲が自分の卓上にだけ並ばない類の事件がそこにあるだけだ。
コの字型カウンターの左側奥では、撮影クルーらがレフ板を用いての撮影の現場となっている。
被写体はいわゆる「全のせ」、メニューに並ぶ全ての揚げ物が和製マサラの上に乗せられ、安定の悪い具に至っては器からダイヴせんが勢い。
撮影が終わり、その全のせを一口さえも食さない撮影クルーは、「皆さんでどうぞ」などと投げっぱなしな発言だけを残して撤収。
その言を受けたか、カウンターの右端から具材の配給が始まる。
まァ云うてもぶっちゃけそんな残骸みてぇなのは要らないし自分の器は既に別の揚げ物ががっつりと占領しているから乗らないしでもあからさまに断るのも悪いかな腹も身の内って云うしな困ったな参ったなーなんてひとり悩んでいる目の前を全のせの具と器が軽やかにスルー。
見れば、スーツ系の客らには与えず、見るからに学生な若造らに限って配給している様子。
まァそりゃァそうだわな、自分がそっち側でもそうするわな。
ロジックでは理解してても、損得抜きでも、たとい空腹ではないにしても、何処か釈然としないこともあるのだ。
(量)
投稿者 yoshimori : May 31, 2010 11:59 PM