June 04, 2010

『六月上席~咬合譚』

7時、乗客も疎らな外回りの山手線に乗ると、同じ車両には爆睡する若造(♂)らが七人分の座席をふたりで占領している。

ひとりは完全に横になっており、車床には置いたのか落としたのか、等間隔に携帯電話と財布とサンダルが並べられていて、もうひとりはと云うと、既に中身は床に吸われてしまった滋養強壮剤の空き瓶を握り締めたまま、隣席に置いた手を軸と定めて、激しい寝返りを繰り返す。
車両内には、寝返る若造から発せられる臼磨音が響き渡り、歯質が崩壊するじゃないかと懸念するほどのグラインディング型歯軋りである。

その音は黄昏時の田圃に啼く蛙に似る。
ぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょ

風情も情緒もへったくれもファッキン無いが、脳内の変換装置はじきに訪れる梅雨入りを意識するのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : June 4, 2010 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?