えェ、朝から湿っぽい感じで御座んす。
ここ最近はてぇとめっきり寄席通いをしておりませんでしたが、亡くなりました五代目春風亭柳昇師匠の著しました『与太郎戦記』なんてぇ戦中日記を読んでおりましたら、戦中によく唄われていたという替え歌の表記が御座ィまして、寄席では此れを九代目入船亭扇橋師匠が「道具屋」なんてぇいわゆる前座噺ン中で劇中歌として演っておりましたのを思い出しました。
♪昨日召されたたこ八が 弾丸に撃たれて名誉の戦死
蛸の遺骨はいつ帰る 骨が無いから帰れない 蛸の母さん悲しかろ♪
これァ「湖畔の宿」なんてぇ戦前の唄が元曲なんてぇ云います。
扇橋師匠、来年で傘寿(さんじゅ=八十歳)なんてんでしょうか、だいぶ喋りの方が恍惚化しておりまして、やはり寄る年波なのかしらと思いきや、師の盟友でもあります十代目柳家小三治師匠曰く、
「あの人は年ィ取ってからああなったンじゃァなくて、昔ッからあんな感じなんだ」
そうですなァ。
マクラっからサゲまで、わざとかと思うくらいにぼそぼそと何を喋っているのか分かりませんでしたが、ただ確かにあの日あの時、此の「たこ八」そんぐはあたしの耳ィ届きまして、「弾丸(たま)に撃たれて」のくだりのこめかみィ人差し指ィ当てる仕草が堪らなく可笑しくてですね、・・・何かこう云いますと、扇橋師匠の在りし日の思い出っぽいですが、ご本人はご存命ですから、今のところ。
まァこの噺目当てで扇橋師匠が浅ァい時間に出る回を見計らって通っておりましたが、後にも先にも聞いたのァ一回きりなんで御座ィます。
めろでぃはさっぱり記憶に御座んせんで、まァとりあえず「湖畔の宿」なんぞを聞いて、扇橋師匠を偲・・・、あ、いやいや、えーと、こういう時ゃァ何て云うんでしょうね、思い出す? それもおかしいですな、えー、扇橋師匠に、そうそう、「に」ですね、浸ろうなんてぇ心持ちですなァ。
(了)
投稿者 yoshimori : June 14, 2010 11:59 PM