「ジントニックを頼んだんですよ」
いや、ていうか俺さ、店員じゃないから。
「そういうことじゃないです。そそっかしいですね」
・・・えーと、誰がそそっかしいのかな?
「まァ聞いてくださいよ、ジントニックですよ」
はい、ジントニック入りましたー。
「それじゃァ振り出しに戻ってますって」
ジントニックがどうした?
「ジントニックを頼んだらですね、ジンと氷が入ったグラスが来ました」
それはトニック抜きだね。
「慌てないでください。その後でトニックウォーターがボトルで来ました」
そういう店なの?
「ちゃんと聞いてくださいよ。で、トニックをグラスに注ぎますね」
それ、ジントニックじゃん。
「そうですよ、オーダー通りですよ」
それがどうしたのかな?
「で、こう、ね、飲み干しますよね」
そうね。
「トニックウォーターは有り余るわけですよ」
なるほど、有り余るね。
「で、言ってやったんです」
店員に?
「いやいやいや違いますよ、ジントニックを頼んだ女にですよ」
女が出てきた。あー、君の話じゃないんだね。それで?
「『中、もらえば?』って」
・・・中ねぇ。
「そしたら、『えっ!?』って顔するんですよ、あの女!」
・・・。
ってホッピーかい。
男と女の間には深くて暗い川があるのだ。
(了)
投稿者 yoshimori : June 30, 2010 11:59 PM