前々から気になっていた木造のよく燃えそうな建造物、別に燃してやろうとか燃すぞとかそういう意味ではないが、赤提灯と縄暖簾的な情緒だけで酒が進みそうなそんな意味合いで。
客全員が備えの団扇か自前の扇子で涼を得ている。
そう、ここには空調がないのだ。
正方形の八畳間程度の空間、クラブチームのユニフォームにも似た衣装を纏った若い大将がコの字型カウンターの中に入ったきりで、奥の厨房には母親と思しき従業員が切り盛りしている様子。
何故に「も似た衣装」なのかと問われれば、サッカーに不勉強だからと答えるしかない。
壁には先の大将と思しき老人が写り込んだ、年季の入った写真が数枚飾られている。
先代か先々代かは不明だが、額の中に居る笠智衆の風貌にも似た当時の大将は、当代には悪いが、この店に合った雰囲気と貫禄を備えている。
まずはと壜ビールをいただく。
続けて冷やで清酒と幾つかの品を。
◆きゃらぶき ・・・ 野蕗の佃煮
◆付け揚げ ・・・ 薩摩揚げ、地元ではそう呼ぶ
◆冷しゃぶの煮凝り添え ・・・ 何の煮凝りかは不明
◆饅(ぬた) ・・・ 葱ぬた
◆小茄子漬 ・・・ このサイズが丁度良い
臨席の濃ゆい四十代、五十代男らは、延々と昔の漫画と古い邦画の話を続けている。
それは、かつての少年がそのままのテンションで何十年も経過していたという結果に相違ない。
古書店街ならではの客層とも云えよう。
話が水木しげる御大に及んだ頃、うっかりと身ごと入りそうになるところをぐっと堪え、この街を後にするのだった。
(了)
投稿者 yoshimori : July 21, 2010 11:59 PM