August 05, 2010

◆『八月上席~額縁眼鏡』

本日ァ落語会じゃァござんせんで、色物さんの会でござんす。
都営三田線を降りますてぇと、かつて知ったる懐かしい風景が続き、国会通り沿いの会場を目指しまさァね。

『二楽劇場』@内幸町一丁目・内幸町ホール

有難ぇことに、招待券という未だかつて見たことの券を使いましての入場で御座ィます。

開演ぶざーが鳴り渡りまして、照明が落ちますてぇと、びーじーえむはの啼き声と変わり、背後からりーんちりーんと風鈴の音が聞こえてきまして、振り返りますてぇと、流浪の俳人こすぷれをした男が舞台に向かって歩いてゆくのが見えます。

「種田山頭火の弟子、『紙だ三枚切ろうか』です」
「この編笠、どう見てもベトコンですよね」
「『まつすぐな道でさみしい』」
「『分け入つても分け入つても青い山』」

他にゃァ「咳をしても一人」もそうでしたなァと訳知り顔しておりましたら、後でそれは尾崎放哉(おざきほうさい)宗匠の作と知りまして、赤面の至りでござんす。

幾つかの作品をお客さんに渡し、高座へ向かうところに、「ゴミ忘れてるわよ」と切り落とした片割れの置き去りを指摘された師匠、返した台詞が泣き節でしたなァ。

「ゴミって云わないでください!(涙)それは我々のほうでは『B面』と呼んでます! 方々でいろいろ云われるンですよ、『紙屑』、『残り滓』とか。この間行った学校寄席では『残骸』って云われました」

で、高座に上がりまして、お客さんのりくえすとに答えての紙切りです。

林家二楽◆紙切り

「圓朝祭」 ・・・ 毎年、谷中・全生庵で行われる圓朝忌に際に一般公開される幽霊画
「纏い持ち」 ・・・ 纏を持って、屋根に上がった火消し
「牡丹燈籠」 ・・・ 「お札はがし」のわんしーん
「薔薇」 ・・・ 嫁入りする姉らしき人物に一輪の薔薇を手渡す妹らしき少女

最後の「薔薇」を貰った女の子、他の作品の「B面」を全て持たされた上、「思ってたのと違う」という面持ちで席に戻ります。

「あたしは先代(二代目)正楽の倅でして」
「兄弟子に今の正楽(三代目)がおります」
「あたしが三歳の時、当時一楽と名乗ってました正楽あにさんに、『おにいちゃん、アイドルは誰が好き?』って尋ねましたら、『浅野ゆう子』って云うんですよ」
「続けて、『あの太腿が堪らない』ってこれ、師匠の息子の三歳児に云うことですかね」
「この人、猫が嫌いなんですね」
「冬に春日部のうちまで来た正楽あにさん、師匠に云われて炬燵に入った瞬間、『キャーッ!』って凄い動きで炬燵から出ましたね」
「後にも先にもあんな早い動きの正楽あにさんを見たことありません」
「この方、目が悪いンですね。でも眼鏡もコンタクトもしないンですよ」
「一度正楽あにさんに聞いたことがあるンですよ、『見えなくて切れるンですか?』って」
「そしたら、正楽あにさん、質問に質問で被せてきました」
「『お前は見ないと切れないのかい?』って、切れるわけないだろ!」
「凄いですね、あの人、目ェ瞑(つむ)ってても切れるンですよ」
「(川柳)川柳師匠っていますよね、あのガーコンガーコンって演ってる」
「川柳師匠が当時、(三遊亭)さん生って名乗ってた頃ですかね、・・・あー、この話女性の方には引かれちゃうなァ、まァでも云いますけど」
「うちの父親と、『千住に馴染みが居る』てんで、あー、えーと、まァいわゆる女郎買いに行ったンですよ」
「もう、千住って時点で厭ですねェ」
「で、先代正楽、紙切りですから、もちろん荷物の中に紙とか鋏とか入ってるンですがね、もうひとつ別の鞄がありまして、川柳師匠が気になって中ァ開けたら、中にセーラー服が入ってったって云うんですよ」
「で、それを女の人に着せてー、そのー、ことをいたしてたって話なんです」
「・・・あー、やっぱりこれ云わなきゃよかった」
「で、続きがありまして、川柳師匠が云うにはですよ、どうも父の馴染みの女が太ってきちゃって、もうそのセーラー服がサイズ合わなくなっちゃったンですって」
「で、そのー、不満だったのか、千住で果たせなかった代わりに家に帰ってカミさんに着せてことをいたして、結果出来たのがお前だって、川柳師匠が高座で云うンですよ!」
「その後であたしが高座に上がりまして」
「そン時のお客さんのリクエストが、やっぱりていうか、当然『セーラー服』でしたね」
「もちろん、切りましたよ!」

三増紋之助◆曲独楽

「今日はいいですねぇ、愉しいなァ!」

紋之助師匠、「輪抜け」の芸が上手く出来てご満悦なんてんで、続けまして、いつもは演らない(上手くいかないから)なんてぇ仰る「羽子板」の芸が、たいへんに危うくて愉しゅうございました。
続けまして紋之助師匠、客席よりひとりの初老の男性を引っ張り揚げまして、「トト○綱渡り」のあしすとをさせるンですがねぇ、この男性、しげちゃん(仮名)の立ち振る舞いがいちいち可笑しくって、仕込みの芸人なのではと勘繰らざるを得ないンですな。
最後には紋之助師匠に、「しげちゃんと全国を廻りたい!」とまで云わしめました。

お仲入りでござんす。

林家二楽・三増紋之助・柳家喬之助◆スライドとフリートーク

「今年は世界各国に行って参りました」

すくりーんには、『南アフリカワールドカップ』という文字が縦に入りまして、あるぜんちん代表選手の方々が円陣を組んでる向こうの観客席に二楽師匠が合成されてます。

紋之助「この人たち(アルゼンチン代表)が何をリクエストするんだよ!?」
二楽「『メッシ、メッシ』って云ってましたよ」
紋之助「嘘吐けぇ! この切ったのどう見ても『羽子板』じゃんか!」

続きまして、『故マイケル・ジャクソンさんと』という文字。
手前では先に亡くなったまいけるさんが切れのいい踊りを見せておりまして、後ろのお立ち台には二楽師匠が。

紋之助「お前だけ踊りが違うよ!」
二楽「皆さん、怒らないでくださいね」

三枚目は「探査機はやぶさ」と宇宙空間に浮かぶ、二楽師匠。

二楽「これは苦しかったー」
喬之助「レベルの低いアイコラだなァ」

『アメリカへ』と続きます。
食品会社のきゃらくたーの観光地的な顔ハメ柳家さん喬師匠と写る二楽師匠。

二楽「さん喬師匠、初めは嫌がってましたけど、目線付きで写ってくれましたよ」
喬之助「さん喬師匠と全然仲良くなさそうですね」

ばーもんと州にある大学での落語の講義の風景。

二楽「この毛唐が『テェヘンダ、テェヘンダ』とか云うンですよ。あと、猫の名付けの小噺とか、『カベハー、カゼヨリモー、ツヨイカラー、カゼニシマショー』ってやつ」
紋之助「毛唐って・・・」
二楽「さん喬師匠にも『お前は差別主義者だ』って怒られました」

同じく、大学での紙切り講義の一枚。

喬之助「これ(紙切りの作品)、ヱヴァンゲリヲン初号機と第三使徒サキエルじゃないですか!」
二楽「詳しいね」
紋之助「え? これを学生が切ったの!?」
二楽「俺が切ったンだよ! こんなのこいつらに切られたら、俺要らねぇじゃん」

次なる一枚、緑豊かな大学のきゃんぱすにて、真ン中には長い半筒状の物体がありまして、浴衣を纏った異国の方が周りを囲んでおります。

二楽「日本の文化に親しんでもらおうと、流し素麺です」
喬之助「これ、雨樋ですね、ホームセンターで売ってるやつ。まァよく拭きもしないでねぇ、使ってるンでしょうねぇ」
二楽「まァそこは外人の方ですから。こいつら、めんつゆもそのまま使いやがんの、割りもせずに原液で」

続きまして、地方巡業、いわゆるドサ回りン時の画像が写し出されます。

「(桂)平治師匠らと大沢温泉にゆきました」
「受付でタオル渡されるンですけど、他の人達は白なのに、平治師匠だけ何故か、やっぱ見る人が見れば分かるンでしょうね、ショッキングピンクなんですよ」
「混浴なんですよ、まァ女の子誰もいませんでしたけど」
「平治師匠、他のお客さんもいるのに、うるさくって、『混浴、んー堪らないわー』、『女の子いないわねー、どうでもいいんだけどー』、『あたしたち芸協だしねー』、『あたしたちゲイ協よー』ってずーっと云い続けてたら、お客さんがひとり減りふたり減りと、最後は我々だけになってしまいました」」

続きまして、二世噺家らの集いの写真です。
林家正蔵、林家木久蔵、柳家花緑、桂米團治師匠らと。

二楽「これは木久蔵・木久扇ダブル襲名ン時に、『プリンスなんだから』と無理矢理撮られましたね」
喬之助「こっちは確かに王子だが、こっちは乞食ばっかりだな」
紋之助「米團治さん、写真の時ぐらい携帯止めろって」

おふた方は退場しまして、喬之助師匠が最後に舞台に残り、衝撃的な言葉を発します。
「今日、僕出番これだけなんで、落語はありません」

なるほど、時刻を見ると、九十分の予定が既に二時間を超えてるんで、致し方なしと落語は諦めやしょう。

最後はのすたるじっくな曲にのせての紙切りです。
その場で一枚切りつつも、既に仕込んであった作品の数々を曲に合わせてすくりーんに映し出してゆきます。
その入替が物凄く忙しい作業に見えまして、仕込みさえも気が遠くなるほど大変なら、高座でも額に汗する姿を目の当たりにしまして、藝に果てはないのだなァと感服致した次第で御座ィます。

これから八重洲に向かいまして、四ツ足の臓物を肴にペイイチ引っ掛けてゆこうと思います。

(了)

投稿者 yoshimori : August 5, 2010 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?