錆色が其処彼処に浮かぶ鈍重な秤部に両の足を付けると、金属製の棒は予期せぬ来訪者に驚いたように飛び起きてさまよい、やがて静止する。
・・・えー? 夏なのに・・・。(涙)
連日の痛飲と鯨飲馬食にかてて加えて、猛暑日続きながら親の仇の如き勢いで摂取する食材の数々、それは虚勢と知りながら、溝(どぶ)に投げ込む天下の通用銭にも等しく、エンゲル係数の上昇は右肩上がりに鰻登りだ。
・・・鰻、いいねぇ。(反省の色なし)
週明けの月曜くらいは休息の意味も込め、軽く夕餉を済ませて寝てしまおうと、この街この時この身体に適した食材を選ぶべく最寄の店へ。
暖簾をくぐり、革靴を脱ぎ捨てて小上がりにると、渋茶の卓上に熱い玉露が出される。
天重を頼む。(何故!?)
やがて運ばれる膳には、大振りな海老が二本、下足(げそ)でも耳でもない烏賊本体、瞬間鱧(はも)とも見紛う鱚の天麩羅、縦に真っ二つの茄子、半月型の南瓜、蔕(へた)まで揚がった青い獅子唐。
甘辛いつゆとともに白飯を掻っ込む。
・・・大後悔。
引越し用のビニール紐と発泡スチロールの梱包材(中国製)だけで拵(こしら)えた筏と、「竹や~竿竹~」を呼び止めて購入した中身すっかすかのアルミ竿一本で大海原に漕ぎ出したきぶんだ。
胸焼けだけが生きている証とさえ思う。
いつになく寝苦しい夜になりそうだ。
(了)
投稿者 yoshimori : August 9, 2010 11:59 PM