煉瓦造りの台湾料理店に来ている。
週末の20時台ということで、当然円卓にて相席となる。
左隣には年の差が不明な女同士、右側が年齢差が歴然とした老紳士と若い娘である。
左は青菜らしき炒めを、右は黒い貝殻を卓上に並べている。
菜譜も開かずに啤酒、蜆、香腸(腸詰)を頼む。
続けて豆苗を。
〆は粥である。
薄いと思うくらいが丁度好く、そして胃腸に優しい。
余力を残しつつ、河岸を変える。
大通りの地階にあるベルジャンビア店内の壁面には、故"MJ"来店時の署名が残されている。
"MJ"とは先年亡くなったキング・オブ・ポップの方ではなく、ベルギービールを世に広めたビール評論家としてビアハンターの異名を持つキング・オブ・ホップの方である。
煉瓦に直書きされた筆跡を指先でたどってみたところで、マイケル・ジャクソンとはさっぱり読めないのだが。
やはり金曜だけあって、店内は混雑を極めている様子。
元々が狭い空間、特にボトルが立ち並ぶショーケース前ではすれ違いが困難となっている。
立ち飲みは性(しょう)に合わずと、スタッフに頼んで階段下の空間に席を確保してもらう。
階段を客や従業員が昇降する真下で前屈みながらグラスに口を付けていると、第二次大戦下のベルリンにて小部屋に匿われている一家の一員であると錯覚する。
"Leffe Blonde"
ドラフトである。
ベルギー南部、ムーズ川沿いに建つレフ修道院にて13世紀より造られているという。
"La Trappe Dubbel"
記憶が曖昧で恐縮だが、確かこの銘の入ったボトルだったと思う。
内部記憶装置には「ラ」と「ペ」、二音のみの残滓しかない。
あと、ラベルの色が赤。
ベルギービールとして認識されているが、実はオランダ北部、ブラバント州にあるコニングスホーヴェン修道院の作という。
トラピストビールの中では唯一のベルギー外の産である。
程好くいただき、仄暗き塹壕より撤収。
敗戦国の末裔として、世界の飲食物による本土上陸を幸せと感じる。
選択肢の多さとは食の侵略に直結しないと信じる。
取捨択一の結果、何かしらのものを身の内に納めているに過ぎないのだ。
今を食と体の蜜月期と仮定する。
それでも我々は一汁一菜的な粗食を何処かで意識しつつも、現在での過剰に自由な立ち位置の為に、闘病でもしない限りは、振り返って原点に立ち戻ることもないのだ。
それは、大人の自由度が不自由になる転機かもしれない。
何だか湿っぽい話になった。
今宵はこの辺で。
(了)
投稿者 yoshimori : September 17, 2010 11:59 PM