前日の酒量を控えて目覚めた午前八時。
本日の脂質再検査の書類に改めて目を通すと、実は「前日21時以降絶食」の指示ではなく、その紛らわしい表現をざっくりと解釈すると、「当日喰うな」程度の条件だったと知る。
何だったんだ、あの禁欲と禁断症状との闘いと世間を呪い続けた数時間は!
まァそれでも良い方へと考え、好結果を期待したいと自宅より外出。
外は小雨であるが、傘は持たない。
半蔵門線に乗り、虎ノ門にて下車。
西新橋に向かって歩く。
雨脚は強くなるばかりだ。
予約時間前に到着。
それでも受付では役所的に無碍にはされず、そのまま検査手続きへ。
階上に上がると、揃いの検査着を来た老若男女どもが雑誌片手に室内を徘徊している。
自分だけが私服である。
囚人を監視する獄卒きぶんで待機する。
名を呼ばれると、此れまでに幾人もの血を吸ってきたであろう、若輩とはいえ熟練看護士の前に座らされる。
看護士の命により左腕の袖を捲くりながら「少し質問させていただきます」と目も合わさずに告げられ、採血をされながら怠惰な生活を糾弾されるかの如き尋問が始まる。
「前日の夕食は摂られましたか?」
いや、あ、はい、食べましたが、21時以降は食べてません。
「(そんなことは聞いてないという風に)お酒は飲まれましたか?」
いや、あ、はい、飲みましたが、21時以降は飲んでません。
「(そんなことは聞いてないという風に)外食は多いですか?」
いや、あ、はい、多いと思います。たまに家でも作って食べますけども。
「(そんなことは聞いてないという風に)油っこい物はよく食べますか?」
あ、はい、よく食べます。揚げ物は好きな方です。
「(そんなことは聞いてないという風に)お酒はよく飲まれますか?」
あ、はい、飲みます。ほとんど毎日飲んでます。
「お酒は普段どのくらいの量を飲まれますか」
えーと、数えながら飲んだことはないですね。分かりません。
「この数値を見てください。若いのに400を超えてます」
はあ。普通はどれくらいですかね。
「標準値は150未満です。若いのにこの数値は異常です」
・・・最悪どうなりますかね。
「このままだと薬を飲んでもらうことになります、若いのに」
それは通院しての治療ですか?
「そうです。そうならないように日頃から外食を控え、運動してください、若いんですから」
はあ。
「はい、以上です。若いんですからお大事に」
・・・はあ、どうもありがとうございました。
もう若さなんて取り得じゃないのに、駄目押しまでされて送り出される午前十一時。
今云われたことをひとつたりとも守れない自信だけを身に付け、絶食した十数時間分の遅れを取り戻すべく、臺灣料理店に向かい、啤酒で雲呑麺と炒飯をやっつけ、夕刻には焼き鳥専門店にゆき、喜久水でつくねひな皮ゴンボ鳥刺しを、最終的には大衆居酒屋特有の油っこい品々を肴に飲んだくれるのだ。
(量)
投稿者 yoshimori : October 9, 2010 11:59 PM