October 13, 2010

『十月中席~仄暗キ就褥』

この時節、日中の気温はやや高いのだが、日暮れともなると肌寒くなって・・・来ないな、まァいいや、晩秋に託(かこつ)けて時候を先取り、おでんダネを目指してゆくのだ。

地階へと下り、熱気を逃す為か常時半開きの硝子扉を抜けると、狭い店内の中央にコの字型カウンターが据えられている。
当店、僅か十二名で満席なのだが、幸いにもおでん鍋前の一席が空いていたので着席。

まずはと「鶴齢(新潟・魚沼)」冷酒で。
鍋を覗くと透き通った京風のつゆに白い絹豆腐が一丁浮かぶのが見える。
これをと指差しのみで浅い大皿に盛って貰い、箸でぐずぐずと突き崩していると、見兼ねた大将から陶製の蓮華が手渡された。
左官が壁を塗るが如く卓上にある桶型の器に入った和がらしを山ほど皿の縁に塗り付けるのだ。

続けて牛たんを頼む。
これは最初から鍋に沈んでいないので、つゆに浸される時間が別途必要である。
豆腐と格闘している間に冷酒一合を飲み干したので、「大那(栃木・那須)」を冷酒で。
程なくして牛たんが摩り下ろした山葵と共に皿に盛られ出てきた。
口に放ると溶けるようだ、ていうかもうほろほろと蕩(とろ)けてる
つゆの味がさほど滲みておらず、それはそれでつゆを啜り込みながら食す愉しみもあり、やがて完食と相成るのだ。

晩婚同士の大将と女将より見送られ、程好い加減で階段を上がり、次に参りましょうかねぇ。

(了)

投稿者 yoshimori : October 13, 2010 11:59 PM
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