化調を用いず、牛骨のみでどうにかするという店に来ている。
骨の持ち主は山陰地方にのそのそしている大山黒牛(だいせんくろうし)という。
奥へと続く厨房に面したカウンターのみの店内である。
入店後間もなく受難が訪れる。
先にカウンターに座っている四人組の中のひとりの若造が床に落とした小銭を拾おうとして止まり木ノ下に潜ずり込んで這い回っている為にスタッフよりこちらへどうぞと空グラスの置かれた席にたどり着けないのだ。
そして此奴等、そろいも揃って顔の色が尋常ではない。
石に赤い水性絵の具を塗り付けたような色である。
それぞれが坊主にも近い短髪でよく陽に灼けており、同じ体育会系部所属なのか似たり寄ったりな衣類を身に着けている為に個体の見分けがつかないのだ。
とはいえ、麺専門の店で顔の色が変わる程飲んだくれるとんちきがあるけぇ、とは云わないだけの度量はあるつもりだ。
若造仲間のひとりが後続の客である私に気遣ってか、小銭探しの若造をカウンター下の奥へ奥へと押し込めようと苦心しているが、押し込められた床若造は同僚の悪巫山戯(わるふざけ)と勘繰ったか、半ギレの状態で床から這い出してくるという、どうにも当たり処のない遣る瀬なさ加減である。
そして、此の若造もまた不思議と同じ顔形である。
歳を取るにつれて若造の顔造作の区別が曖昧になっているだけかもしれない。
何か悪い日に当たったようで、胃の中の黒牛さえも遠く思える因州鳥取な店なのだった。
(了)
投稿者 yoshimori : November 5, 2010 11:59 PM