November 25, 2010

『十一月下席~けんもほろろ』

十一月の第四木曜日、世間ではやれ中秋の名月だのハーヴェストムーンだの収穫祭だの感謝祭だの七面鳥を絞めるだの喰うだのと浮かれ騒いでい・・・ないな別に
まァ静かなものである。
兎角日本人は認知度が低くて男女が浮かれないイベントには悉(ことごと)く冷淡なのだ。

かつてこの"Thanksgiving Day"に招待された記憶が甦る。
恵比寿ガーデンプレイスに隣接する木造一軒家に住まうニュージャージー出身の白人男性は当然アメリカ人で、彼と同居する日本人女子は私の知人の友人というぶっちゃけ赤の他人も甚だしい初対面のガイジン宅に招かれたのである。
白人の名も顔も失念したが、仮にベンジャミンとしておこう。
通称はベンである。

ベンは伝統的な正餐として、腹部にがっつりと詰め物をしてオーヴンでじりじりと焼かれた首のない七面鳥の丸焼きを食卓に並べようとしていた。
生涯初のリアルターキーとの対面である。(向こうは首がないけど)

家長であるベンは見知らぬ訪問者(私)の為に七面鳥を切り分けて皿に盛ると、傍に付き添う彼の嫁候補の日本人はクランベリーソースを添えて供してくれる。
ターキー味に記憶はなく、ただクランベリーの酸味だけは覚えていた。
詰め物の中身はだったろうか、食べ慣れないその味に一口で止めにしたような気もする。

副菜としてマッシュポテトが卓上に用意されていた。
そしてこの肉汁の掛かった潰し芋が大変に美味であり、十年も過ぎ去りし今でもその味を超える存在を私は知らない
何が違うのだろうか、グレイヴィー(肉汁ソース)の有無だろうか。

赤や白のワイン、シャンパン的な液体を飲んでいたとも思う。
気が付けば二階の一室にてベンと映画の話をしていた。
日本で働きながら日本語をそれほど必要としないアメリカ人と、英語が不得手な日本人の話す内容なぞ会話と呼べる代物ではないのは承知している。
それでもトム・クルーズ悪口で盛り上がっていたような記憶がないわけでもないのだ。

帰り際に手土産を渡されたような気もする。
それが何だったのかは今となっては思い出せない。

あれから十年もの歳月が過ぎ、この"Turkey Day"に会した三名とはもう疎遠となってしまったが、毎年十一月の第四木曜日になると思い出すのは、ベンの故郷ニュージャージーで仕込まれた(と思われる)マッシュポテトとグレイヴィーの味である。

大味と揶揄されるアメリカーナ食の中でも、魂が揺さぶられる品があるのだ。

(了)

投稿者 yoshimori : November 25, 2010 11:59 PM
コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?