火鉢を一ツ所有している。
母方の祖父より譲り受けて来た品で、陶器製の寸胴型である。
丸胴火鉢と呼ばれるものだ。
底部より藁灰はみっしりと詰まっており、幾度となく炭火も焚いている。
薬罐を載せるべく五徳が欲しいところだが、鐵製網で代用している次第である。
季節柄好い塩梅だろうと考え、餅を焼こうと思った。
勝手にある炭櫃を開けるが中は空である。
細かく砕けた炭が指を汚す程度のものでしかない。
買い置きが尽きたのを放って置いたようだ。
此の時刻から買い求めに行くには及ばない。
出入りの炭屋が居ればさぞかし重宝だろうと考える。
嗚呼、其れにしても此の鈍重なる存在感、焔の無い火鉢なんぞ只の鉢に過ぎんではないか。
灰を全て掻き出し水を満たして金魚でも放り込みたくもなるというものだ。
今日の処はまァ差し許すとして、明日ッからは名に恥じぬよう働いてもらわねばなるまい。
(了)
投稿者 yoshimori : December 2, 2010 11:59 PM