December 03, 2010

『十二月上席~鯨海酔侯(げいかいすいこう)』

雨音で目覚める午前七時、窓越しに見える空は鉛色、しかもを伴った豪雨である。
予想最高気温は二十三度という。
ていうか師走だぜ?

とは云え外出する頃には快晴となり、瀧の如き雨を降らせた雲雲はとうに消え失せている。
午前中から千代田区にある懇意にしている蕎麦屋の暖簾をくぐる。
店に出入りする青果業者「千代田の御濠が溢れている」等等問わず語りも愛想である。

周知の通りだが、矢張り暑い。
只只雷雨豪雨に晒されない丈増しと云う他はない。

時候違いに洗い流された街街の様子を伺おうと、渋谷区にある地元縁の店を訪ねる。
本日の酒肴
此処での酒は女将に選って貰うばかりである。

◆突き出し(牛蒡と里芋の炊き合わせ)
◇鶴齢(新潟・魚沼)
◇天の戸美稲(あまのとうましね、秋田・阿仁)
◆古漬け(胡瓜、大根、生姜)
◇酔鯨(高知)

白木のカウンタア、支払いを済ませて早く帰りたがる物書き(♀)の隣に新宿区にある独逸語の大学教授(♂)が座ると、物書きは帰る潮を完全に失った様子で、家路を急ぐ物書きは先から飲っていた酔鯨を脈絡もなく私の猪口女将手製の片口から注(つ)いで量(かさ)を減らそうと画策も、逆に「まァ先生も御一つ」献杯の返杯に継ぐ酬杯となり益益席を立ち辛くなっている。
一頻り応酬を終えた後、物書きと教授は連れ立って店を出て行った。

思えば一年と少し前に当店を訪れた際にも、彼(か)の物書きと同じ席で似た様な遣り取りが在ったと思い出す、まァ向こうは覚えちゃァいまいが

(了)

投稿者 yoshimori : December 3, 2010 11:59 PM
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