December 07, 2010

◆『十二月上席~参拾陸分的な』

じぇいあーる新宿驛舎さざんてらす口から出まして、ぎらぎらとしたいるみねーしょんが続く小路沿いに均等に並ぶ盛りの憑いたなんてぇつがい共の間を抜けまして、やって来ました紀伊國屋
本日ァ立川流の師匠の独演会でござんす。

『立川談笑 月例独演会 其の109回』
@千駄ケ谷五丁目・紀伊國屋サザンシアター

何処か耳慣れた洋調子の出囃子で幕が開きますてぇと、何やらむーでぃーならいてぃんぐが明滅を繰り返しまして、駆け足で高座に上がる談笑師匠で御座ィます。

立川談笑◆千早振る

「(市川)海老蔵、ランニングに半ずぼんで六本木をうろうろしてるらしいですよ」
「ランニングに半ずぼんて、『たま』ですね」
「殴られっ放しだったそうじゃないですか」
「二、三発ぐらいは殴り返して欲しかったですね、荒事師の一人者(いちにんしゃ)なんですから」

本編:
作り込んだ改作の前振りとしまして、本来であれば隠居の役どころが和尚、八五郎の娘に花という名が付与されております。

「『とは』てぇのは一体ぇ何ですかぃ」
「んー、『とは』は千早の・・・」
「本名てんじゃァないでしょうね?」
「・・・其んな事ァ云わないよ。そう、よぉく調べて見ると・・・」
「井戸の中から『トハッ』て飛んだりしませんよね?」
「・・・勿論しないよ」
「和尚さん、此れ何か当てがあって云ってンですかぃ」
「いやァ・・・別に・・・」
「じゃァ『とは』てぇのは一体ぇ何ですかぃ!」
「んんん、・・・喬太郎に聞いとくれ」

いや驚きました、まさかの喬太郎オチでござんす。
此りゃァ話さねぇと分からねぇンですがねぇ、橘家文左衛門てぇ師匠が居りまして、この方が柳家喬太郎師匠の上がる前に『千早振る』を演ったンですな。
で、此のサゲと同じ型で高座を下りまして、振られた喬太郎師匠は持ち根多であります『すみだ警察一日署長』なんてぇ新作に文左衛門師匠を登場させまして、「千早振る」を「血はヤプール」と始まる新解釈でサゲたという伝説的なえぴそーどに結び付くンで御座ィます。
のっけからの敷居の高さに戦戦恐恐とせざるを得ません。

師匠、袖に一瞬入りますが楽屋へは引っ込まずに二席目を相勤めます。

立川談笑◆錦の袈裟

「落語の登場人物の中では与太郎が好きですね」
「私の同級生に与太郎なる人物が居りまして、内田君て云います」
「勉強は凄く出来るンですがね、喋りがね少しあれなんですよ」
「『ひでちゃん、ひでちゃん』、あ、私、英裕(ひでひろ)って云うンですけど」
「『ひでちゃんはー、やさしくてー、いいひとだからー、ごほうびをあげます』」
「って、此れっくらいのノートの切れっぱしを呉れるんですね」
「で、中を開けると『御褒美』って書いてあるンですよ、漢字で」
「意味分かりませんねぇ」
「今何やってンですかねぇ、元気でしょうかねぇ、内田君」

本編:
与太郎は檀那寺の和尚から無事に錦の袈裟を借り受け、此れを女房おさきの手で褌に誂えて貰いまして吉原へと向かいます。
ごわっごわの錦の褌の刺戟がどうにもあれで、しかも殿様扱いで花魁連中からもてちゃったもんですから愚息も昇天しまくりなんてんで、翌くる日には床の上がどうにかなるくれぇの下(しも)まっしぐらな描写と「お前ぇ、大正xxって知ってる?」なんてぇ危険な表現が続きます。
で、「袈裟ァ帰さないとお寺をしくじる」なんてぇサゲには結び付かず、花魁のひとりと檀那寺に向かう与太郎は和尚にでろでろの袈裟を返しまして、其れを受け取った和尚は連れて来られた花魁の姿を一目見まして、まるで幽霊でも見るような顔で「今ァお前さんの・・・」と云い掛けた処で「後半へ続きます」と師匠は高座を下りました。

幕が下りまして仲入りで御座ィます。

立川談笑◆宮戸川

本編:
「お父っつぁん、開けてください、半七です、もう将棋で遅くなったりしませんから」
「オイ爺ィ開けろよォ、日の出暴走帰りだから遅くなんの分かってンだろ、オイ糞爺ィ、開けろってんだよ、婆ァ、糞婆ァ」
「あ、お花さん、そっちも締め出し喰っちゃったンですね」
「あら半ちゃん、違うの、あんぱん喰ってたの」
「(・・・悪い仲間の所為で此んなんなっちゃって、昔は楚楚として可愛くて好きだったのになァ)」

やがて霊巌島の叔父の家にやって来る半七とお花は呑み込んだ叔父に依って二階に上げられて同衾させられます。
「いいですか、お花さん、此の帯より此方(こっち)に入って来ちゃァいけませんよ」
「何これ」
「境界線ですよ、三十八度線て奴ですよ」
「どうせ北も南も同ンなじxxxxxだよー」

通常ですと演者はお花半七の絡みになりますてぇと、「此の先ァ本が破れていて分からない」というサゲに為るンですがねぇ、流石は談笑師匠、此の先を全てのりさーち能力を掛けまして解明したと続きを始めます。

「其の時、男のxxxxったxxを女のxxxにxxxたxxxをxxxにして」

此れをお花半七の所作と思わせといて、実は下で寝ている筈の叔父夫婦の描写てんですから、まァ大変な噺もあったもんで。

で、好い仲に為りましたお花半七は叔父の媒酌で伊勢屋を継ぐ若夫婦となりまして幾年か経ちます。
或る日の事、小僧定吉と出掛けたお花は突然の雷雨で持病の癪を起こし、風体の良くねぇ三人組に下心付きで介抱されますが、実は此れが昔の悪ィ仲間てんで其の侭(まま)中洲ィ連れてゆかれまして大雨で溢れた川に流されて行方知れずとなります。

此処から噺は前席、『錦の袈裟』の続きと相成ります。

「今ァお前さんの・・・三回忌なんだよ、お花さん」
「・・・」
「半七さんに会わないかぃ、会いたくないなら其れもいいだろう」
「・・・合わせる顔も御座ィません」
「少し待っておくれ、いいかい其処に座って待ってておくれよ。・・・与太郎は帰っていいんだ」
「和尚さん、如何かなすったンですか」
「・・・いや半七さん、付かぬ事を訊くが、・・・もし、もしもだ、お花さんが帰って来たら、お前さん何とする」
「・・・あの大雨の日に何が起きたのかは分かりませんが、帰って来たならば大事にしようと思います」
「其れを聴ければ良い、安心した。逢ってやっておくれ」

と死に別れたと思ったお花と半七は再会を果たします。

「夫婦の絆とは深いもんだ・・・、とは? そうか、やっと分かった、お花さん、お前のお父っつぁんの墓前に報せてやりなさい」
「・・・半七さんとまた会えた事をですか?」
「いやァ、『とは』の意味をだ」

実ァ前中後編の通し公演で御座ィました。
無理繰りに繋げた感がない訳でもないですが、よもや泣かす方向とは思いも寄りませんでしたなァ。
詰め込み過ぎたのか、九十分の尺でさえ早足に聞こえまして何処か物足りなさも無かァありませんやね。

一度は閉じた幕が開きまして本年最後の挨拶と先月急逝した談笑師匠の弟弟子にあたる談大師匠を偲つつも膝立ちにて三本締めを行いまして追い出しで御座ィます。
寒風に追われまして新宿御苑前にあるなんてぇくらふと麦酒の店に向かい、さんでぃえご産の樽生をいただこうと歩く冬枯れの銀杏並木で御座ィます。

(了)


◇サンクトガーレン@厚木「湘南ゴールド」・・・ 温州みかんとゴールデンオレンジ(黄金柑)を掛け合わせた品種「湘南ゴールド」より製造。
◇Stone "Oaked Arrogant Bastard Ale" ・・・ オークチップ使用。
◇Green Flash "Hop Head Red Ale" ・・・ 隣接するバドワイザー工場の100分の1の生産量ながらホップの使用はバド社と同量という。

※サンクトガーレン以外の二点はサンディエゴ産。

投稿者 yoshimori : December 7, 2010 11:59 PM
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